エンタメ 自作掌編小説「猫の影」 失職して田舎へ帰って来たが、やることがない。 毎日ぶらぶらしている私を見かねて、母が納屋の掃除を言いつけた。しかし小屋の中は、きちんと整理整頓が行き届いている。几帳面な母が、散らかしておくはずがない。 小屋の中を見回したら、子どもの頃に使っていた釣り竿が目に入った。フナ釣... 2026/05/11
エンタメ 青森市の片隅でアコースティックライブを聴きに アコースティックライブ かつて大都会で暮らしていたことがあった。 その頃、ひっそりと存在していた「アングラ」という、独特の雰囲気をもった場所に魅力を感じていた。 それは地下にある黴臭いジャズ喫茶だったり、同世代の若者たちが運営する芝居小屋だったり。 アルバイトが休みの日は、ベー... 2025/10/11
エンタメ , 万葉集 秋田刈る仮庵を作りわが居れば衣手寒く露ぞ置きにける 秋の田 稲刈りのための作業小屋が、ほぼ出来かけた頃に雨になった。 雨脚がだんだん激しくなって、田んぼの端にある森が白く煙って隠れてしまった。 軒部分の葺きが粗かったのか、稲藁が黒く染みて、ぽつりぽつりと雨露が垂れている。 まだ昼過ぎなのに、辺りは夕暮れのように暗い。 ちょっと早い... 2024/03/14
エンタメ 自作ハードボイルド短篇小説「居酒屋」 居酒屋の赤提灯。 眠っていたのか、眠っていなかったのか。 布団の中で、一晩中、茫然としていたような気がする。 この受け入れがたい出来事は、夢ではないのだとぼんやりと思いながら。 隣の彼女は、静かに寝息をたてて眠っている。 そっと身体に触れたら、いつもの体温が指に伝わって来た。 ふ... 2023/10/16
エンタメ , 万葉集 近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ シロチドリ( 「コピペできる無料イラスト素材展・鳥イラスト素材集」 より) 都営住宅の4階の部屋から王子駅まで、彼のゆっくり歩きでは30分ぐらいかかる。 王子駅から東京駅までは、JR京浜東北線・快速を利用した。 東京駅から葛西臨海公園まではJR武蔵野線に乗った。 料金は片道400... 2022/05/18
エンタメ 夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く 「国立国会図書館デジタルコレクション」より。 高校生の頃、小倉百人一首に親しんでいた時期があった。 小倉百人一首は、藤原定家が選んだとされている秀歌撰のこと。 藤原定家は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて活躍した歌人である。 藤原定家が京都の小倉山の山荘で、百人の歌人の和歌をひと... 2022/03/27
エンタメ 雪の脈 どういうわけか、私の歯にスジが乗り移ったみたいだ。このあいだからグラグラ動きだしている上あごの犬歯に、スジの霊が憑りついたようなのだ。 スジというのは、私の中学時代の同級生だった男だ。彼は、その地方一帯に悪名をとどろかせた不良だった。私は中学時代、スジに何度も叩かれた。私... 2021/03/23
エンタメ 「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」異論もありかな 秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 藤原敏行朝臣の作とされているこの歌は、秋になるとよく耳にする歌のひとつである。 すぐれた秋の歌として、多くの人たちに愛吟されている。 私もこの歌に出会ったころは、「ああ、なんて良い歌なんだろう」と思った。 秋の到来が風の音... 2020/09/17
エンタメ 奥 縁側の長い通路に沿って、広い庭があった。 遊び盛りだった子どもの頃は、私はこの庭でよく遊んだ。 苔の生えた石灯籠《いしどうろう》があったり、朽ちたお社《やしろ》があったり、濁った沼があったりで、好奇心を刺激するものが多かったからである。 庭の草薮に棲《す》んでいる蛇が、縁側の通路... 2020/05/20
エンタメ 老事務員のお金の話 老事務員のイラスト(制作:ブログ運営者)。 私は、ある会社で経理業務を担当している事務員です。 経理の仕事は、簡単に言えば、会社のお金の流れを記録することです。 現金や預金の管理とか、売上の入金確認とか、経費管理などが私の日々の業務でございます。 ご覧のように私の外見は老... 2020/05/13