雑談散歩

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泣きっ面にハチ

「ねえ、ママ、向かいのお店、閉めちゃったみたいよ!」
「向かいの店って、スナック薔薇のこと?」
「そー、なんでもねチィママが一ヵ月分の売り上げ持ち逃げしちゃったんだってさー。」
「それは願ったり叶ったりね。ここんところ、お向かいさんにお客取られっぱなしだったから。下手すると、こっちがつぶれるところだったのよ、ヨーコちゃん。」
「あのママねえ、借金まみれってうわさじゃない。借金返せなくて自己破産しちゃうらしいわよー。」
「まあ、薔薇のママ、踏んだり蹴ったりじゃないの。」

「それがねえママ、そうでもないのよ。あそこの常連客に、お医者さんがいたんだって。」
「そうそう、あのママ、けっこういい客をつかんでたみたいね。」
「そのお医者さんと、結婚したみたいよ。もう玉の輿ね。そんでもって、借金も彼氏が肩代わりしてくれるんですって。」
「それは、至れり尽くせりね、大喜びしてるでしょうね、あのママ。」
「そう、ピンチをチャンスにしてしまったわけよ。うらやましいわねぇ。」
「ヨーコちゃん、あんたもまだ若いんだから、少しはがんばんなさいよ。」

「そういうママだって、背が高くてハンサムな彼氏がいるじゃない。わたし、いい男には縁もゆかりもないのよ。」
「あんなの見かけ倒しよ。定職につかない怠け者で、おまけにギャンブル狂い。もうひとつおまけに嘘つきなのよ。平気で嘘八百並べるんだから、もう弱り目に祟り目よ。」
「へえー、いい男って、諸刃の剣ね。」
「そうよ、ヨーコちゃんも見かけだけで判断しちゃだめよ。パッとしないけど、世の中、可も無く不可も無くって男が一番いいのよ。」

「それはそうとねえ、薔薇のママは、押しも押されもしない院長婦人になっちゃったわけだけど、その院長先生が医者の不養生で寝たり起きたりの生活らしいのよ。」
「それじゃ、病院の経営も大変なんじゃない。」
「もう、尻に火がついてるってうわさよねえ。」
「まあ、薔薇のママも、元も子もないわね。せっかく伸るか反るかの大博打を打ったのに。」
「あらママったら、そんな言い方したら身も蓋もないでしょう。」
「これも自業自得だからね。あのママは浪費癖があってね、それで借金がふくれあがったのよ。」
「そういう話よねえ。」
「店をやってた頃もね、女の子への払いも滞りがちだったっていうじゃない。だから女の子も入れ代わり立ち代わりだったみたいね。」
「あら、ママもよくご存知ね。」
「蛇の道は蛇よ。」

「じゃわたしは、蛙の子は蛙。」
「あら、じゃヨーコちゃんとわたしは持ちつ持たれつね。」
「そう、ママのこと杖とも柱とも思っているわ。」
「まあ、わたしはこの商売から引くに引けないわねえ」

「ところで最新情報だけどねえ、その薔薇のママ、カムバックするみたいよ。」
「ええ、それって、元の木阿弥ってこと。ヨーコちゃん、それを早く言ってよね。あのママは煮ても焼いても食えないんだから。もう油断大敵。」
「薔薇のママにも、止むに止まれぬ事情があるみたいでさー。」
「せっかく喜んでいたのに、これじゃまたうちも閑古鳥が鳴くのね。」
「これでこの店がつぶれたら、恥ずかしくて泣きっ面に恥じね。」
「ヨーコちゃん、それを言うなら泣きっ面にハチでしょ。」

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