内田百閒の短篇小説「白子」について・夢幻と現実 短篇小説「白子」 「夢幻」小説 内田百閒の短篇小説には、描かれている光景や登場人物の行動が夢幻的であるものが少なくない。 その「夢幻」の中に現実が混在している。 または、現実の中に「夢幻」が混在している。 「夢幻」と現実の境界は曖昧である。 それが、内田百閒の「夢幻」小説を読み解... 2024/09/07
隣のヨシ原のヨシがブロック塀基礎の下から進入 ヨシのジャングル。 5~6年前から、隣の二百坪ほどの原っぱのヨシが、家の庭に忍び入っている。 地下茎が、ブロック塀の基礎の下を潜って、こちら側に勢力を広げている。 地下茎は、1メートルぐらいの深さまで延びるそうなので、浅い基礎なら容易に潜航できる。 それまでスギナとかヨモギが主だ... 2024/08/17
内田百閒の悪夢、短篇小説「虎」について 漢字の形 ちくま文庫の内田百閒集成3「冥途」の解説は多和田葉子氏が担当されている。 解説のタイトルは「文字と夢」。 そのなかに、小説の題名になっている漢字や小説文に登場する漢字の形についての言及がある。 漢字の部首などが、物語に与える印象について述べておられる。 たとえば「それで... 2024/08/12
文章を読み解く楽しさ ブドウのイラスト 。 遠くに住んでいる親しい知人から「ブドウを送った」というメールが届いた。 そのメールを追うように、もう一通、「ブドウの種にご注意」という件名のメールが送られてきた。 注意点として、以下の文が添えられている。 種無しの種類なのに今年はどういうわけか種が入っている... 2024/08/10
内田百閒の短篇小説「神楽坂の虎」を読んだ トラのイラスト 。 「夢」を小説に 「夢」を小説にすることは、容易なことではない。 と思われる。 「夢」は、断片的なイメージの集まりで、散文的な文脈を持っていない。 何よりも目覚めたときに、見た「夢」の記憶を失ってしまうことがほとんどである。 内田百閒は、そういう「夢」を「神楽坂... 2024/08/08
内田百閒の短篇小説「桃葉」を読んだ感想 桃の花。 お膳をかこむ(宴会) 合間合間に内田百閒の短篇小説を読んでいる。 最近読んだ「桃葉」という短い小説も面白かった。 「桃葉」は昭和13年に、「文学」5月号に発表された小説である。 犬と、栗鼠の子が出てきて、可愛らしい。 といっても、犬は声だけの出演で、栗鼠の子はボール函の... 2024/07/29
北八甲田の登山道は完全閉鎖 酸ヶ湯公共駐車場から曇天の大岳を眺める。 ドライブがてら七戸の道の駅へ野菜の買い出しに行った帰り、国道394号線を通って八甲田へ回った。 八甲田の山岳道路に入ると、谷地温泉付近からあちこちに「入山禁止」の看板が立てられている。 先月末に地獄沼近辺に設置した「箱罠」で、該当するクマ... 2024/07/13
五十肩と八甲田山入山規制 画像:青森県庁HPより。 クマによる人身事故発生で北八甲田に入山規制 ついに北八甲田連峰の登山道が、事実上の立入禁止になった。 酸ヶ湯温泉近辺(地獄沼近く)でタケノコ採りをしていた女性(80代)がクマに襲われ死亡するという不幸な事故が四日前(6月25日)に起きた。 この事故のため... 2024/06/29
春されば樹の木の暗れの夕月夜おぼつかなしも山陰にして 森のなかのおぼろげな月夜。 険しい峡谷をよじ登る。 幾日もかけて、沢岸の岩場を進んだり、滝の岩壁を越えたり。 行く手は険しいが、険しければ険しいほど、敵の追撃の手が届きにくくなる。 山育ちゆえ、山歩きには慣れている。 山の地形に対する勘も働く。 だが、ここまで来ることができたのは... 2024/06/27
落ちたぎち流るる水の磐に触り淀める淀に月の影見ゆ 川面に映った月影。 太古の時代に、文字は大陸から流れて来た。 水の流れのように高い場所から低いところへと、ごく自然に流れて来た。 文字は、文字を渇望していたこの島国に染みこんだ。 やがて、漢字とともに大陸の制度や宗教もこの国にたぎり落ちた。 吾々の先祖は、大陸の文明を滝のように浴... 2024/06/22
冬ごもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも吾が情熾く 野焼き。 花鳥風月は楽しめない。 妹とか背子とか、恋の歌は得意ではない。 仏教も儒教も知らず。 漢詩の素養もない。 宮廷歌人のように博識でもない。 役人は、仕事のついでに歌枕の地に遊ぶという。 吾は旅に出たことがない。 春の野焼きの風情を、貴族たちはよく歌に詠む。 吾は、枯草を焼... 2024/06/20
家にして吾は恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を 茅の一種であるススキ(ともまるさん, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons) 二年前の秋に、妻と播磨へ向かって旅をしていたとき、明石川を越えてから道を間違えて広大な印南野の台地に迷い込んだことがあった。 見渡す限り一面の茅野原。 茅の穂が風に揺れ... 2024/06/17
たまくしげ三諸戸山を行きしかば面白くしていにしへ念ほゆ 三輪山と箸墓古墳(シャシン4, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons) 敵国に侵略されている友好国を救援せよという朝廷のお達しが下されて、海を渡った異国の地での戦に向かうことになったのは二十日ほど前の事であった。 集合地の難波津(なにわつ)には、... 2024/06/12
秋田刈る仮庵を作りわが居れば衣手寒く露ぞ置きにける 秋の田 稲刈りのための作業小屋が、ほぼ出来かけた頃に雨になった。 雨脚がだんだん激しくなって、田んぼの端にある森が白く煙って隠れてしまった。 軒部分の葺きが粗かったのか、稲藁が黒く染みて、ぽつりぽつりと雨露が垂れている。 まだ昼過ぎなのに、辺りは夕暮れのように暗い。 ちょっと早い... 2024/03/14
飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ 藤原宮 大極殿跡(サイゲンジロウ氏撮影・パブリックドメイン)。 去るのは女性(歌で物語を描くのは女性) 一斉に鳥が羽ばたくように、明日香の里をあとにして、去ろうとしている。 三代続いた都の栄華を、もう見渡せないところまで来た。 こうして離れると、寂しさが募るばかり。 美しい都も、... 2024/02/23
しなが鳥猪名野を来れば有間山夕霧立ちぬ宿は無くして 摂津名所図会・有馬温泉(国立国会図書館デジタルコレクションより)。 しなが鳥が川面に居並ぶ猪名川を越えた。 この道が有馬道と呼ばれている街道であるのかどうかは定かではない。 難波から有馬の湯里へ向かうには、幾筋かあるなかで、この道が良いと旅人に教えられた。 この道を進めば、猪名川... 2024/02/19
秋津野に朝ゐる雲の失せゆけば昨日も今日も亡き人念ほゆ 朝焼けの雲。 秋津野の朝焼けの雲が、だんだん消えていく。 紫がかった東雲が、細くたなびいて白くなり、薄雲になって青い空に染みていく。 亡くなった人を焼いた煙が、雲になるという。 秋津野の空の雲を見ていると、あの人を葬送した朝を思い出す。 星空を仰いで、荼毘の炎は蒼い空に赤く燃え上... 2024/02/17
春日山おして照らせるこの月は妹が庭にも清けかりけり 春日山の月。 高円山に朝日が昇ると、春日山はその光を浴びて美しく輝く。 その姿は、神々が森を抱いているように見える。 春日山を崇めれば、疲れた心が洗われる思いがする。 その春日山の麓に住まいを構えているものの、吾の屋敷は精彩に欠けている。 造りも安普請ではなく、屋敷も広いのに。 ... 2024/02/15
海原の道遠みかも月読の明すくなき夜はふけにつつ 暗い海。 夜の神に見放されてしまったのか、月の明かりが暗い。 これでは、岩礁の在処を知ることもできず、潮の流れを見ることもできない。 海賊の襲撃をおそれて、日暮れてからの船出にしたのだが、当てにしていた月明りがわずかしかない。 岸に沿って航路が示されている次の泊地までは、危険な岩... 2024/02/13
山の際に渡る秋沙の行きて居むその河の瀬に波立つなゆめ アイサガモのイラスト。 「鳥イラスト素材集」 より。 吾の愛しいアキサが、別天地を求めて村を飛び出して行った。 吾に一言もなく。 やんちゃで向こうっ気が強くて気難しいアキサは、一つところにはなじめない。 ここへやって来た時がそうであったように、ふいにどこかへ飛び去った。 やんちゃ... 2024/02/11