正面顔と横顔の印象の違う人
私って美人でしょ。 |
例えば私が、側に立っている人物を横から見た時、そのときの相手の顔は「横顔」という一般的な呼び方になる。
それに対して、正面から見た場合は、「縦顔」ではなく「正面顔」というややぎこちない呼び方になってしまう。
免許証など、公の証明書に貼付けられる顔写真は、この「正面顔」と決まっている。
銭湯でよく見かける、犯罪者の指名手配のポスターには横顔が添えられていることもある。
人物を特定するには、横からの「見え方」も必要だから。
よく「まともには見られない顔」という言い方があるが、たぶんそれは正面から見た時の顔のことだと思われる。
これは「顔が醜すぎて、憎々しくて、まっすぐに向かい合って見るには、平常心を保てないほど苦痛である。」という意味合いの罵詈雑言の慣用句である。
いわゆる「正視に耐えない」というやつ。
「まとも」という言葉には「真面」という漢字があてがわれていることが多い。
だから「まとも」には「正面顔」という意味合いも若干含まれていると思うが・・・。
「まともじゃない」という言い方は「正面顔じゃない」という意味とは程遠い。
「まともな生活」とは「正面顔で生活する」という意味ではない。
「あいつは、まともじゃないよ」は「あの人は一般的な社会通念からは外れた生活態度・行動スタイルの人」ぐらいの意味だろうか。
とにかく、「真面(まとも)」という言葉の使い方として、正面顔が文脈に大きくイメージされることは、あまり無い。
でも、「まとも」という言い回しに、ごくごくわずかに、正面顔がチラチラ見え隠れするのも事実だ。
「まともな生活」のパーツには「正面顔で生活する」というイメージがあっても良いような気もする。
「正面を向いて生きていこう」みたいな言い方もあることだし・・・。
正面顔と横顔の見た目の印象が違う人は、割といる。
正面顔はのっぺりと平坦そうだが、横顔はホリが深くて、その立体的な有り様は別人のようだ、というようなこともある。
横顔に自信のある横顔美人な女性は、真正面よりも、斜め横向きで人に対したらいいんじゃない、と心の奥で考える。
そして、やや横目的な目つきで、相対する人に目をやったりする。
その対談相手が年配者の場合、彼は「こいつまともじゃないな」と思ったりするかも知れないが、横顔美人の若い女性は、平気だ。
彼女は、自身を良く見せようとする意識が強いので、老人の思いには気がつかない。
そしてついには、自慢の横顔だけで応対するようになる。
彼女は、横目で老人を凝視しながらの「横顔正面」的な応対を決行する。
彼女の白目の隅に細い血管が浮いているのが見える。
目の端っこに突っ張った黒目につられて、口の端がヒクヒクしている。
横顔の横目は異様だ。
老人は後ずさる。
もうこれは「まともじゃない」なんてものじゃない。
「はて面妖な、この女は妖怪か?」と思ったりしている。
「今度正面を向いたときは、のっぺらぼうかも」
そう想像したら、それ以外のなにものでもなくなる。
老人の想像力には年季が入っている。
長い人生で見聞きした「事実」にも裏付けられていたりする。
そして老人はある事実に気づく。
正面顔は一つだが、横顔は左右二つあるではないか!
正面顔と合わせると、顔が三つある女だ!
恐怖心が発見能力を高めるのか。
新発見が恐怖心を煽るのか。
と言うより、もう何がなんだかわからない。
老人の不安はつのるばかりだ。
当の妖怪は、長時間の横目使いに目がチカチカして、老人の表情の変化を読み取れないでいる。
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