靴底が壊れた(ウレタン靴底の加水分解)リアルな日常
壊れたウレタン靴底。 |
異変
仕事仲間の「ご母堂様」が亡くなられたので、その通夜に参列したときのこと。受付を済ませ、式場に入り、焼香を終えて着席したところ、式場の係員がホウキとチリトリを持って、ウロウロしているのが目に入った。
なにやら黒い粉や小さなクズの塊を、ホウキで集めて、チリトリにさらっているようなのだ。
その黒い残骸の列は、点々と、私の席の方に延びている。
ふと、足元に目を移すと。
私の靴の周りが黒いカスだらけ。
靴底の崩壊
上の写真のように、靴底のかかと部分がボロボロと崩れ出して、ほとんど崩壊しかかっていた。クルマにゴム長靴を積んでいたので、それに履き替えて、通夜に列席した次第。
クルマの運転席のアクセルペダルの周辺に黒いカスが散在していたので、式場に向かうクルマの中で、靴底の崩壊が、すでに始まっていたようである。
てことは、受付から焼香、着席まで、黒いカスをばらまいていたことになる。
なんと迷惑な弔問客だったことか。
家に帰って、件の靴底を検分。
この靴は、10年ぐらい前に購入したもの。
カジュアルなデザインだが、黒色なので、礼装用靴に使っていたのだった。
靴が軽く、底が柔らかいので、履きごこちが気に入っていた。
それに、雨の日でもあまり滑らない靴であった。
値段は、比較的低価格だったような。
でも、極端な安物では無かったと記憶している。
ウレタン製靴底
つきあいが少ない方なので、礼装用の靴なんかめったに履く機会が無い。一年の大半は下駄箱で眠っているというような使用状況の靴である。
靴底が、見た目にウレタン製であるので。「壊れたウレタン製靴底」でネット検索をかましたら、「リアルな日常」が見えた。
「下駄箱のミステリー? !ウレタン底の靴」と題された「独立行政法人国民生活センター」のページが真っ先にヒット。
ページの日付は「1997年11月6日:公表」とある。
なんと、今から20年近く前じゃないか。
以下は、その冒頭の「消費者被害注意情報 No.11」にある文章の抜粋。
いくらも履いていない靴なのに、歩行中突然靴底が壊れた、ある日履こうとしたら靴がボロボロに欠けていた…。
こんな苦情が、PIO−NETに 440件も入力されている(1997年10月26日まで)。それが原因で転倒しけがをしたケースもある。靴底がウレタン製の靴は、軽くてクッション性があ り磨耗に強いが、使用頻度には無関係に一定期間が経過すると、靴底のウレタンが加水分解(※)を起こして破損するという欠点がある。長期の保管には適さな い旨や、短期間でも保管方法に注意することなどを表示しているメーカーもあるが、苦情は一向に減少しない。 (※) 加水分解:ウレタンのような化合物が水・空気中の水分等によって分解する反応。
(抜粋終わり)
てことは、俺も被害者じゃん。
しかも、20年近く前に、こんな事実が公表されてから、10年間もウレタン底の靴は放置・放任されていた事になる。
上記抜粋部分に「破損するという欠点がある 。」と書かれているが、これは単なる欠点ではなくて欠陥なんではないか。
けが人まで出たということは、ウレタン底の靴は欠陥商品ということだろう。
経年変化
靴メーカーの対応として、〈全日本履物団体協議会傘下の業界団体である日本靴工業会に加盟する靴メーカーは、説明書に「発泡ポリウレタン底は(略)長期間の保管をすると使用回数にかかわらず経年変化を生じ、破損する場合があります。」と記載している。〉とある。これこそがミステリー。
そんな危険性の高い材料なら、「発泡ポリウレタン底」の靴をつくらなければいいだろう。
靴底の破損が 重大事故の原因になる、ということも容易に想像できる。
以下、消費者へのアドバイスとして書かれている項目を抜粋。
- 購入するとき、靴底の材質について表示を確認するか、表示がない場合は販売店で聞くこと
- 長期間の保管には適さない商品なので、購入したら頻繁に履くほうがよい。
- 短期間でも保管するときは、風通しのいい場所に置く。
靴箱に入れる場合は箱の横に穴を開けて入れる(ビニール袋で保管するのは最も悪い)。雨の日に履いたら水気を拭き取っておく。 - 礼装用や季節性のあるデザインの靴などたまにしか履かない靴は、ウレタン底でないものを選ぶ。
安全に対する疑心
1997年の段階で、靴メーカーが 「発泡ポリウレタン底」の靴を製造・販売中止にしていたら、こんなアドバイスは不要である。なによりも、私は本日の通夜で、失態を演じることはなかっただろう。
安全が、足元から崩れていくというリアルな日常。
インターネットの世界では危険にたいする情報があふれている。
しかし、「安全」に対して、現実的な疑心を抱く習慣を身につけていなければ、ネット情報も目に入らないし、リアルな日常が見えてこない。
リアルな日常にミステリーなど存在しない。
あるのは、現実的な危険と、危険を隠すなんらかの意図。