サンシュユのえんじ色の落葉
公園のサンシュユ。 |
そのサンシュユの紅葉もとうとう終わった。
渋いえんじ色の落葉が、サンシュユの木の根元を埋めている。
落葉になっても、なかなか色が抜けないところが、桜の落葉を思わせる。
だが、サンシュユの落葉は桜ほどカラフルではない。
渋いえんじ色の濃淡で統一されている。
散る寸前の紅葉。 |
それもそのはず、えんじ色は日本の伝統色で、漢字で「臙脂」と書き表されている。
だが現代でも、日本工業規格ではJIS慣用色名 (ジスかんようしきめい) 269色のひとつに「えんじ」としてマンセル値で定義されている。
根元に、敷き詰めた落葉。 |
C=19%、M=78%、Y=58%、K=4%。
これをプリンターで出力しても、実際のサンシュユの落葉のような鮮やかな色は出ない。
人工の色は、自然の色には敵わない。
でも、言葉で「えんじ色」と言えば、それは自然の色のことなのだ。
絵で描いたり、音で表したり、数字で規定したりしても、言葉ほど自然には近づけない。
日本の伝統色で真赭(まそほ、ますほ)という色がある。
松尾芭蕉「おくのほそ道」に「十六日、空晴れたれば、ますほの小貝拾はんと、種の浜に舟を走らす。海上七里あり。」という文章がある。
「種の浜(いろのはま)」とは福井県敦賀市の色ヶ浜(いろがはま)のこと。
「ますほの小貝」とは真赭色の小さな貝がらのこと。
真赭色は薄紅色に近い感じだが、これもプリンターでは出せない。
芭蕉の「ますほの小貝」という言葉が、いちばん貝殻の自然な色であると思う。
言葉による表現は、自然そのものを写しとって、私達の情感に働きかける。
文章の言葉も、句の言葉も。
サンシュユのえんじ色の落葉を見て、芭蕉について何か書けないものかと思い、こんなまとめ方になってしまった。
なかなか色が抜けないサンシュユの落葉。 |