雑談散歩

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卒業写真の老人

「卒業写真」は、荒井由実(現・松任谷由実)さんの代表的なヒット曲のひとつ。
この歌は、当の松任谷由美さんが歌うよりも、山本潤子さんの歌の方が好きという方もいらっしゃるようで。
ま、好きずきってことですね。
それはさておき、その歌詞に下記のような一節がある。

「町でみかけたとき 何も言えなかった
卒業写真の面影がそのままだったから」


私は現在64歳である。
その私が、彼を町で見かけたとき、何も言えなかった。
中学校卒業記念写真の顔そのままだったから・・・・・。


老人


クラスメイトの彼の呼び名は「ズゲドン」。
その一風変わった呼び名の由来は知らない。
本名は、忘れた。

小学校の頃から少々老け顔だったズゲドンは、中学を卒業する頃は、立派な大人の顔をしていた。
まあ、田舎の村では、その手の老け顔は、よくあるタイプなんだけど。

「何も言えなかった」と書いたが、言葉を失ったのは、同じ年恰好の彼を目撃した直後の数秒間だけだった。
あまりにも、卒業写真そのままで、驚いたから。
それでも、私は勇気を出して、ずっと会ってなかった同級生に話しかけた。

「よう、ズゲドンじゃないか、久しぶりだね・・・・・」

私から「ズゲドン」と呼ばれたその年配の男性は、「はぁあ?」と言って、私を怪訝そうな目で見つめた。

「ズゲドンって何ですか?私に何の用ですかぁ!」

ここで私は、斉藤とか鈴木とか、ごく普通の苗字を思い出せば良かったのだが、私の記憶には「ズゲドン」しかなかった。

「あんたは、中学で同じクラスだったズゲドンだろ。忘れたのか、俺だよ、俺。」

「ひ、非常識な、初対面の私に向かってズゲドンだなんて、いい年をして無礼にもほどがある!」

彼は、キョトンとしている私に背を向けて、その場を去って行った。
私にとって、その去っていた男性はズゲドン以外の何者でもなかったのだが・・・・。


そんなことがあって2~3年後に出身中学の同期会が催され、私も参加した。
立食のテーブルで雑談に興じていると、精悍な顔つきの紳士が近づいてきて、私に話しかけた。

「よう、ひさしぶりだねぇ。」

「あっと、申し訳ない、誰だっけ?」

私が胸の名札を確認しようとしたとき、その紳士は名乗った。

「ズゲドンだよ、忘れたのかい。」

「へっ?」

ズゲドンの、あまりの立派な変わりように、私は驚いた。
話では、ちょっとした会社の経営者であるという。

彼は、私の顔をまじまじと見つめて言った。

「それにしても君は変わらないね、卒業写真そのままじゃないか。ハッハッハ。」

「ハハハハ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」と私は、笑うしかなかった。

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