雑談散歩

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暑き日を海に入れたり最上川

「出羽三山巡礼登山」を終えた芭蕉は、鶴岡に出た。
鶴岡から川舟で最上川に出て、酒田に到着。

酒田は、夏場はフェーン現象により暑くなることが多い土地柄。
芭蕉が酒田を訪れたのは元禄2年6月13日。
夏の暑い盛りであったと思われる。

暑き日を海に入れたり最上川
松尾芭蕉

芭蕉が酒田に着いたのは夕方だった。
日中の暑さをもたらした太陽が、赤い夕陽となって日本海に沈もうとしている。
それを芭蕉は、最上川を下る川舟から眺めている。

夕陽を正面に受けて、舟の上で赤く染まっている芭蕉。
まるで最上川の流れが、夕日に注ぎこんで、暑い太陽を海に沈めようとしているようである。
芭蕉は、そういうダイナミックな情景を思い描いたのかもしれない。

月山では、雲の峰にのぼる月を見た。
そして酒田では、最上川の流れを下る舟の上で、海に夕陽が沈むのを目の当たりにしている。
今までにない、自然のダイナミズムにより接近した位置から、芭蕉は風景を眺めているのだ。

山岳に雲が湧き、月が出現し、夕陽に向かって大河が押し寄せる。
月山や最上川では、それら自然の動きを、静かに見つめ、詠嘆を抑えた句にしている。

もう一方で芭蕉は、川の流れを時の流れとして描いている。
夏の午後から夕方にかけての猛暑の時が、川の流れとともに海へと過ぎ去っていく。
暑かった一日が、芭蕉の乗った船とともに、川を下る。
芭蕉は河口に近い場所で舟から降りるのだが、暑い一日は河口から海に出て海に沈む。

芭蕉は、川の流れに、時間感覚をゆだねた。
そして、それに浸りながら見た風景を、自身の感覚の句にしたのだと思う。
時間と空間が絡み合った世界。
一枚の幻想画を見ているようである。

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