2016/10/21

軽トラ

 ユキオの会社で仕事の打ち合わせを15分ばかり。その15分の間に、路上へ止めたオレのピックアップがレッカーされちまったようだ。ユキオの会社の駐車場は会社から離れた場所にある。ついつい面倒くさがって路駐してしまう始末。その結果のレッカー移動。雨降りの路上には白っぽい軽トラが1台止まっているだけ。オレのピックアップは影も形も無い。雨で濡れているせいか路面にはチョーク書きが無い。前にもこんな感じで駐車違反即レッカー移動された知り合いがいた。ユキオの会社の前は道幅が狭い。そんでもって、近所にクレーム好きのチクリ屋がいるみたいで、このあたりは駐禁即レッカー地帯なんだ。

 そういえばクルマを止めたとき、どでかい傘をさした太っちょオバンが、大げさに歩きにくそうな格好でオレをにらんで行ったっけ。きっとあのオバンに違いない。今にして思えば、あのオバンがチクリ屋だったんだ。もっと早く気づくべきだった。そんなことより、クルマを取りに行かなくっちゃ。クルマは大通りにある8階建て公共駐車場に放り込まれているはず。ユキオの会社の前でレッカー移動されたクルマは、たいていあそこだ。グズグズしてると、ど高い駐車料金を払わされるはめになっちまう。そのうえ、レッカー代だ罰金だで財布が薄くなる。

 ユキオに、こうこうこうで公共駐車場まで歩いていくから傘貸してよって言ったら、「ほな、乗せてくよ。」って言った。と思ったら、クルマを取りに駐車場まで猛ダッシュ。すぐに軽四で戻って来た。オレが助手席に滑り込んで、ユキオがクルマを出した途端、ユキオの嫁が走りながら窓を叩く。「アンタ、免停中でしょ!」嫁は運転席のドアを開け、「詰めてよ!」って言って座席に押し入る。軽四の前の座席に3人乗り。ああ笑えねー、後は空いてんのに。

 ユキオの嫁は背が高くて美人だが、運転は下手。電柱でこする、ガードレールでこする。傷だらけで公共駐車場へ到着。8階建て立駐の1階から8階までクルクル回ったが、オレのピックアップは見つからない。「今度は下がりながらゆっくり見ようぜ。」と真ん中でユキオ。「おお、頼むよ。」と助手席のドアに貼り付いたオレ。身体を斜めにかまえた嫁が慎重に運転して、4階へ下りかかったとき、目の前に黄色いレッカー車のボンネット。嫁は、ハンドル切れずに急ブレーキ。それをレッカーの運ちゃんが上手にかわして上へあがる。引っ張られてるのは白っぽい軽トラ。

 ユキオの会社の斜め前に止まっていた軽トラじゃん。と、思った瞬間思い出した。あれは俺が乗ってきた軽トラだった。ユキオと嫁は、「えっーっ!」「ユウイチ、ピックアップじゃなかったのかい?」とユキオ。「ユウちゃんはピックアップでしょ。あんなダサい軽トラなんて・・・。」と嫁。そう、俺もピックアップで来たと思い込んでいたんだが、実は、女房の軽トラ、借りてきたんだっけ。なにしろみんなピックアップのことしか頭になくて。オレ・イコール・ピックアップ・イコール・カッチョイイてなわけで。

 オレは、クルマから降りて、レッカーを追って走る。「おーい、待ってくれー!」って叫んでも、レッカーは止まらない。後でガリガリと音がする。嫁が無理にUターンしようとしているのだ。オレは、立駐の坂道を急に登ったもんだから息切れがして、めまいもして。後ではガリガリ音とユキオの怒鳴り声。「ユウちゃん、いま行くからねー!」と叫ぶ嫁の声。

 嫁が猛スピードで上がってきて、オレを引きそうになり、また急ブレーキ。タイヤのゴム摩擦臭。「ユウイチー!」とユキオの叫び声。「ユウちゃん、乗って!」という嫁の金切声。さながらアクションシーン。「なんでピックアップじゃないんだ。そうか女房の軽トラだったんだなぁ・・・。」というオレの自問自答。立駐の外は大粒の雨。立駐の中も雨の匂いでいっぱいだ。雨のせいで錆びたオレの頭。で、女房の軽トラはと言うと、レッカーに引っ張られてケツを振り振り、角を曲がって、視界から消えた。

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