「ああ、穫れない!」
「朝から潜りっぱなしなのに、一匹も穫れない。」
「う、う、うっ、鴨の野郎は、ちょくちょく獲物があるようだ。」
「やつらは、要領がいいんだ。」
「こんなに動き回っているのに、何にも穫れない。」
「潜って、浮かび上がる度に、鴨の野郎のニヤついた顔が見える。」
「さぞやこのオレを馬鹿にしていることだろう。」
「潜る事も、泳ぐことも、オレの方が1枚も2枚も上手なのに。」
「う、う、うっ、さっぱり、穫れない!」
「焦れば、焦る程無駄な動きをしているような気がする。」
「それは頭で解っているのだが、頭では見当がつかない。」
「ついつい、この優れた瞬発力と潜水能力と水泳能力に頼ってしまう。」
「でも、のろまな鴨の方が稼ぎが良いのだ。」
「これは、どういう事だ。」
「あいつの方が頭がいいのか。」
「う、うっ、オレは馬鹿なのか!」
「焦りは強くなるばかりだ。」
「ばかりだって、やっぱり馬鹿なのか、オレは。」
「う、まてまて、あわてて物が見えなくなってやしないか。」
「う、こういうときは、あっさり休憩だ。」
「う、う、う、うっ、それみろ、潜水の繰り返しでこんなに息が乱れているじゃないか。」
「これでは、酸欠で、脳まで血が回ってないかもしれん。」
「陸に上がって、羽根を乾かしながら、少し休もう。」
「ああ、それにしても、子ども達は腹をすかしているだろうなあ。」
「う、う、う、うっ、休んでなんかいられない。」
「う、働け!働け!」
「う、稼ぎがあがるまで、動き回れ」