雑談散歩

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理髪店の女店主は乱れて二日酔

今日、近くのショッピングセンターで、いつも利用している理髪店の女店主にばったり出会った。
彼女の視線がちょっとどんよりしている。

たぶん、昨夜飲み過ぎたのだろう。

「あらあ、久しぶりねえ」
と、私に気が付いて、彼女は二日酔特有のトロトロしたダルそうな物言いで寄って来た。
彼女のフラフラな視線が、蝶々のように私の頭部に停まる。

「ちっとも長くなってないね、もう大分経つのに・・・・。」

この頃気づいたのだが、髪の毛の長くなる速度が遅くなった。
高齢に近づくとそうなるのだろうかと思っていたところである。

彼女の理髪店に通い始めて、もう15年ぐらいになる。
15年前は、もうちょっと頭髪にボリュームがあった。
年齢が多くなるとともに髪の毛が目に見えて少なくなった。

長くなる速度は同じでも、ボリュームが減ったので、そんなに長く伸びているようには見えないのかも知れない。
あるいは、髪の毛が薄くなったのと伸びる速度が遅くなったのと、その両方のせいかも。

「育毛します〜?」
彼女は、いたずらっぽい目つきをして、面白そうに言った。

彼女の理髪店では、減りつつあるお客のボリュームを取り返そうと策を練って、育毛マッサージのサービスを始めたのだ。
私は、彼女の店では、髪が薄くなったのなんか気にしていないといつも言っているのだが、彼女はそれを強がりだと思っているのだろう。

買い物客に聞こえないように、私の近くに寄ってきて、小さな声で、「Tさんなんか、大分濃くなったのよ」

「ううっ、酒臭い」
私は、声には出さずに叫んだ。
そういう叫び方もあるのだ。

彼女は、それを察して、一歩後ずさった。

「育毛ねぇ」
彼女のお腹のあたりに目がいった。
15年ぐらい前は、彼女もスマートだったなぁ。

私がそう思ったのを、彼女はまた察したらしく、むっとして、
「行く、もうね」
と、なにやら、駄洒落のような、そうでないような言葉を残して、魚売場の方へ歩いて行った。
ちょっと足取りがフラフラしている。
あの息を吐かれたのでは、鮮魚も腐ってしまうだろう。

今日が月曜で、床屋は定休日なので、昨夜はかなり乱れて深酒したのだろう。
育毛のイメージが乱れ毛のイメージと重なった。

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