紫陽花の空染み入る夢のなか
葉も鮮やかな紫陽花。 |
二三日雨が続いた後、近所の公園の紫陽花が咲いた。
陽光を求めて、次々と大きな花を開いていく。
紫陽花は、花もきれいだが、花が咲く頃の葉の緑も美しい。
初々しい若葉色。
葉と花が放っている光が柔和だから、心が和む。
その花が、かすかな風に揺れている。
公園の脇の道にクルマを停めて、タクシーの運転手が昼寝をしている。
紫陽花の柔らかい光が、昼の眠りを誘っているようだ。
ギラギラ照りつける夏の太陽だが、紫陽花の穏やかな笑顔が強い光線を爽やかにかわす。
紫陽花の身のこなしは、淡い色合いのムーブメント。
夢色に染まっていく風景のなか、静かな風が吹き抜ける。
涼し気な水色の模様を染めこんだ単衣。
涼し気な水色の模様を染めこんだ単衣。
タクシーに向かって歩いてきた女の人が、クルマのボンネットを手のひらで軽く叩いた。
運転手は、まだ寝ぼけ状態。
紫陽花の方ばかり、寝ぼけ眼で見ている。
「たのみますよ。」
女性は日傘の陰でちょっと顔を傾げ、おだやかな笑顔で運転手に言った。
「昭和通りまで、お願いね」
運転手は、「ずいぶん遠い時代へ行くんだねぇ。」と、まだ夢の中。
紫陽花の空染み入る夢のなか 草児
紫陽花は、「昔を懐かしむ」という花言葉の方が似合いそうな気がするが。
ほら、「まだ純粋でいられた私。」とか。
「まだ、ニラレバ炒めが好きだった私。」とか。
「まだ、ニラレバ炒めが好きだった私。」とか。
女性は、日傘をたたんで、慣れた様子でタクシーに乗り込んだ。
「ご出勤ですか。」と運転手がお愛想を言った。
「いいえ、遠い時代に帰るのよ。」
ご婦人が微笑んだ。
「それはまた、ノスタルジーを乗せたるじい。」
運転手の下手なダジャレに、和服の女性は涼しい顔でそっぽを向いた。
「ご出勤ですか。」と運転手がお愛想を言った。
「いいえ、遠い時代に帰るのよ。」
ご婦人が微笑んだ。
「それはまた、ノスタルジーを乗せたるじい。」
運転手の下手なダジャレに、和服の女性は涼しい顔でそっぽを向いた。