雑談散歩

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嫁のグラディエーターサンダル

また、女友達とそのダンナの笑い話。

ダンナが、玄関にしゃがみこんで、彼女を呼んでいる。
「これ、すごいねぇ。お前が持っているものとずいぶん違うねぇ」
ダンナの手の先には、嫁のグラディエーターサンダルがあった。
ヒールが高くて、キラキラ光っているやつ。
何を考えているのか、ダンナはそれを眺めながらニヤニヤしている。

彼女の目には、水虫だらけの汚いダンナの足と、若い女性のグラディエーターサンダルの対比が、妙に薄気味悪く映ったそうだ。
まるで、まぬけなホラー映画の一コマみたい、と彼女は思った。
すぐにダンナを怒鳴りつけて、そのキラキラを下に置かせた。
玄関のタイルの上には、スニーカーやらサンダルやら、嫁の履物が散乱している。

注意すると、「あ、すみませんおかあさん。」の繰り返し。
彼女は、その繰り返しを何十回聞いたことだろう。
口先だけで、よくぞ生きて来れたもんだ。
今では、彼女が嫁の履物を下駄箱に放り込む役目。
姑は、嫁の下足番。

グラディエイターサンダルとは、古代ローマの剣闘士が着用したと言われている履物。
嫁よ、そんなことも知るまい、と彼女は思った。
私にも、闘い用のグラディエーターサンダルはあるのよ。
私がそれを履いたらどうなるか、思い知るが良い、嫁よ。
近い将来の決闘を前にして、彼女の意気は、しだいに高揚してくる。

それにしても、これは嫁以前の問題だねぇ。
片付けるという能力が、欠落していると思わざるをえないわ、と彼女。
ま、欠落している能力は、それだけじゃ無いのよね。
下足箱に嫁の履物を放り込んでいると、嫁の欠点が悪臭のように匂ってきて、ああ、今夜もストレス発散のカラオケか、と彼女は空を見つめる。

その虚ろな眼差しをダンナは見逃さなかった。
「そうだよ、行こう行こう、パーッと行こうよー」
とダンナの浮かれ声。
ダンナは、嫁のグラディエーターサンダルをつまみあげたときから浮かれっぱなし。

また、私のパート給金に、たかる気かい、と妻は「浮かれ野郎」をにらみつけた。
これでは、ダンナと対決するグラディエーターサンダルも必要ね。
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