バレンタインデーのチョコレートとジャック・ニコルソン

バレンタインデープレゼント
バレンタインプレゼント。

バレンタインデーが近づくと、スナックのママはチョコレートを買い集める。
それは、バレンタインデーに彼女の店を訪れたお客に、義理チョコをプレゼントするため。
スナックのママは、チョコレートを探しながら、「バレンタインデー」という言葉で連想できるものをいろいろと考えてみた。
もちろん、真っ先に「愛」とか「恋」とかが頭に浮かんだのだが。

その次に、昔観た映画の事も思い出した。
若い頃、恋人と観た「聖バレンタインの虐殺/マシンガンシティ」というギャング映画。
1967年製作のアメリカ映画を、ママとその恋人が観たのは’80年代半ばぐらいだったか。
ビルの地下にあった低料金の洋画専門館でだった。
この映画は、アメリカのシカゴで、実際に起きたギャングの抗争事件を題材につくられたもの。

ママはその頃、か弱い女の子だったから、ギャング映画なんか観たくはなかった。
1968年製作、オリヴィア・ハッセー主演の「ロミオとジュリエット」を観たかったのだ。
彼女は布施明のファンでもあった。
が、彼氏に「けっ、あんなもの」と却下されてしまった。
昔の彼氏が「けっ、あんなもの」と吐き捨てた対象は、「ロミオとジュリエット」の映画だったのか布施明だったのか、彼女は今も見当がつかない。

さて、ギャングの抗争事件に話をもどそう。
その虐殺事件は、1929年2月14日に起き、当時、「聖バレンタインデーの虐殺」とか「聖バレンタインデーの悲劇」とか「血のバレンタインデー」とか呼ばれていたもの。
「虐殺」とか「悲劇」とか「血」とかが「バレンタインデー」の語につながっていて、それは、バレンタインデーのイメージを、残虐なものに塗り替えるのに充分であるように思われた。
そう思い込むと、「バレンタイン」という語の響きが、どこかギャングっぽいと感じてしまう若き日のママだった。

映画を観ながら、小心な彼女は、1929年の2月14日のシカゴの現実を見る思いであった。
警官を装った殺し屋たちが、敵対するギャングのメンバーを壁際に立たせて、マシンガンで瞬時に 射殺してしまう。
映画を観て、こんなにリアルな恐怖を感じたことは無かった。
彼女は、ギャングになりたいとか思っているわけではない普通の女の子だったのだが、自分はどこかでこんな虐殺事件の巻添えを食うかも知れないという強迫観念に囚われた。
いろいろな刺激に支配されやすい性質だったのだろう。

だから今も、バレンタインデーのために、せっせとチョコレートを買い集めているのだが・・・。
彼女はギャング映画なんかに興味がなかったので、「聖バレンタインの虐殺/マシンガンシティ」に出演している異国の男優はまったく知らなかった。
その中で、彼女の関心をひいたのは、虐殺現場である倉庫へ、殺し屋達を乗せていくトラックの運転手のチョイ役で出ていた存在感のある男性。
癖のある笑顔。
彼氏に聞いても、知らない俳優だという。
憂い顔がどこか布施明に似ていると、どういうわけか彼女は思ったのだった。

彼女は後に、この男優の名前を知ることになるが、この映画ではチョイ役でクレジットもなかった。
そして、すっかりファンになって、「チャイナタウン」「カッコウの巣の上で」とジャック・ニコルソン主演の映画を次々と観るようになる。
だから、彼女のバレンタインデーで連想するイメージのなかに、ジャック・ニコルソンの顔が大きく登場するのは言うまでも無い。
「聖バレンタインの虐殺/マシンガンシティ」の映画を一緒に観た、当時の彼氏の顔は、もう思い出せない。

彼女は、店の壁に、大好きなジャック・ニコルソンの「シャイニング」の写真を掲げている。
それが、この頃のお気に入りの顔なのだ。
なぜか悲しげで、物憂げで、狂気なジャック・ニコルソン。
おお!バレンタインデーの日、カウンターの前には「シャイニング」を彷彿させるお客が数人。

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