財布を意識することでお金が貯まる
ファイナンシャルプランナーの花子さんは、そうおっしゃっている。
じゃ、財布を持たない人っていますよね、そういう人はどうなんですか、と訊くと。
「財布を持たない人はダメですーっ。」
霊感が巫女さんを直撃したような、するどい答えが返ってきた。
なんと、財布を持たない人は「現実逃避の願望を強く持っているタイプ」だとか。
その図式はこうだ。
お金の入れ物がない=お金が所在不明になりやすい=お金に無頓着=お金を使う自分に無頓着=お金(自分)がどうなってもかまわない=現実逃避
こういうタイプの人は、物や自身を大切に思う気持ちが少ないそうだ。
そうか、気をつけなくっちゃね。
「ところで、財布のどこを見れば何がわかるんですか?財布の革っすか?頭の皮を見ればハゲがわかると言いますが・・・」と太郎は訊いた。
「そうですね、ハゲの人は頭の皮が見えますからね。現実頭皮、なんてね・・・」と花子さん。
ファイナンシャルプランナーは、冗談でテンションを上げるようなことはしない。
「財布の中の整理整頓が出来ている人は、お金や現実にたいして前向きで、お金が貯まる人が多いですね。」
「財布の中がグチャグチャはダメですか?」と太郎。
「グチャグチャやガチャガチャというふうに擬音表現で言い表せる行為には、落ち着きが無いということです。」
花子さんは続ける。
「落ち着きの無い人は、得るよりも失うものの方が多いのです。」
妙に納得してしまう太郎だった。
「納得のついでに、もうひとつ」
太郎は握った指のなかから、人差し指を立てた。
不要なジェスチャーね、と花子さんは内心ゾッとした。
「お金の貯まる財布の使い方を教えて下さい。」
太郎は、小銭でふくらんだ自分の財布を花子さんに見せて、にこやかにそう言った。
花子さんは、だんだんイライラしてきた。
「その小銭をなんで使わないのよ、小銭を使えない人はダメね。」
「財布が小銭ではち切れそうよ、これだと大銭の入る余地がないでしょう!」
「あんた、買い物をするときは、面倒くさがって、札ビラばかり切ってんでしょう!」
「 だから、あんたの財布には、小銭ばっか溜まってんのよ。」
そうだったんだ、と太郎はおびえた。
花子さんの乱暴だが鋭い指摘と、自分の無頓着さにおびえた。
「財布ってのは、小銭を通過させて、お札をしまっておく入れ物なのよ」
「お金を払うときは、小銭から出すっ!」
花子さんのドスのきいた声が、太郎の空っぽの頭に反響する。
「もっと財布を大事に使いなさい。財布を意識することでお金が貯まるのよ。」
「なに、この財布、キッタナイ!縫い目がほどけて小銭が落ちそうじゃない!あんたってもう本当にサイテーねっ。」
「サイテーのサイコ野郎ねっ、なんなのよ、このサイフ自体がもうすでにサイコ 野郎じゃないっ!」
映画で叫びまくるハリウッド女優のようなファイナンシャルプランナーの花子さん。
太郎は現実逃避したかった。