ロングショットとクローズアップ「箱根こす人も有らし今朝の雪」

芭蕉が、遠い場所の出来事を思い描くと、私たちは、それを映像のようにイメージしてしまう。
今度は身近な出来事を指し示す。
私たちは、その対比を、しらずしらずに楽しんでいるのかも知れない。

箱根こす人も有らし今朝の雪
松尾芭蕉

「有るらし」とは、名古屋に居る芭蕉の推定だが、雪降る箱根峠で難渋している旅人の姿が芭蕉には見えているような気がしてくる。

雪が降りしきる箱根の山道を、寒さに耐えながら歩いている旅人達の小さな影。
芭蕉は、ロングショットで、その光景をとらえている。
そして、場面は「今朝の雪」に変わる。
芭蕉のすぐそばで起こっている出来事「今朝の雪」がクローズアップされる。

芭蕉は、伊良古崎の旅からもどって、名古屋近辺の人々に迎えられ、しばらく休養をとることにした。
その間、方々の「俳句会(俳諧興業)」に参加している。

江戸深川を出発して、旅を進めていた頃と比べれば、いささかのんびりとした気分になっていたかもしれない。
体調不良のため休憩していたという説もあるが。

上記の句は、俳句会での発句として作られたものらしい。

後の時代に「箱根の山は天下の険」と歌われた東海道の難所を芭蕉も越えて来たのだが、今は名古屋の知人宅に身を休めている。
温かな家の中で、静かに休憩していれば、難所越えなど他人事のように思えてくる。

気分は「対岸の火事」ならぬ「対岸の難所越え」であるか。
そういう気持ちで、箱根峠を遠望したのかも知れない。

芭蕉得意(?)のロングショット。
このロングショットは、「今朝の雪」のクローズアップから導かれたように思う。

目の前に「今朝の雪」があった。
芭蕉は、これに対比させる出来事を探し、芭蕉のカメラが箱根峠のロングショットを捕らえた。

クローズアップとロングショットの「対比効果」は、空間的な広がりの強調か。
その広がりのなかで、ほっとしている芭蕉の姿が思い浮かぶ。

箱根こす人も有らし今朝の雪

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