芭蕉の挨拶句「香を探る梅に蔵見る軒端哉」

名古屋で、裕福な商人が開催する「句会」に招かれた芭蕉は、そのお礼として挨拶の句を詠む。

こういう「句会」に慣熟している芭蕉は、巧みに挨拶の句を作る。
おべんちゃらを含め過ぎてはダサい句になってしまう。
さらりと相手の自尊心をくすぐらねばならない。

屋敷には見事な梅の木があった。
富裕な様子を推し量ることが出来る大きな蔵も建っていた。

(か)を探る梅に蔵見る軒端(のきば)
松尾芭蕉

春が待ち遠しく梅の香りを求めて、梅の木に近づいたら、そこは蔵の軒端だった。
立派な梅の木にばっかり気をとられていたが、梅に導かれて、この軒端から立派な蔵を見ることが出来た。
というイメージかな。

句会主催者の屋敷にある梅の木と、大きな蔵を、芭蕉はそれとなく「ヨイショ」しているのである。
そしてそれは、句会参加者の視線を、梅の木や蔵に誘導することでもあるのだ。

むろん、このサロンのメンバーは、主が所有する梅の木や蔵が、たいそう立派であることは承知している。
主は、そのことを何度誉められても悪い気がしない。

主が気に入ったのは、この挨拶句のイントロが「香を探る」であること。

馥郁(ふくいく)とした梅の香りの予感は風雅の境地。
その香りは、浮き世の商いの苦労を忘れさせる芳香剤のようなもの。
商人の蔵に染みついた俗っぽい欲の、脱臭剤となるであろう。

お金持ちの旦那様は、すっかり良い気持ち。
「芭蕉を誘って良かったなぁ・・・」と、心ひそかに感じ入る。

百戦錬磨。
お呼ばれ句会に熟練の芭蕉は、してやったりとすまし顔。

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