居酒屋の酔っ払い女と「あしのうら洗えば白くなる」

居酒屋のカウンターには、すでに女性の先客が一人。
相当飲んでいるらしくテンションが高い。
イケイケと言うか、ノリノリと言うか、そんな感じで酔っ払っている。

私が席に着くと、その女性は私の方を向いた。
あごを引いて、上目ににらむような目つき。

私の方を見るなり「アハハハ」と大笑い。
そして、「キャーッ、こいつ、顔が変」だって。

「これこれ」と女将が女性を制したが、その女は止まらない。
私を指差して「顔が悪い」だってさ。

酔っているとはいえ、初対面の私になんてことを言うんだ、と思いながら、女の顔を見たら、えらく扁平な形になっている。
なかなか他人の顔が悪いと言えるような形では無い。

何かに例えるなら、足の裏だね。
顔が足の裏してる。

土踏まずのあたりに真っ赤な唇があるから、踵(かかと)である下あごは大きい。
鼻はぺしゃんこ。
指の付け根と土踏まずの間の盛り上がった部分に目がついている。

良いところと言えば、面長であることと色が白いこと。
耳たぶに埋め込んだ小さなピアスが、おしゃれと言えばおしゃれ。
それ以外は、まったくの足の裏。
白い足の裏。

足のうら洗えば白くなる

白い足の裏の顔を目撃したら、この句が思い浮かんだ。
作者は、たしか尾崎放哉(おざきほうさい)という自由律の俳人。
明治から大正にかけて活躍した方である。

この俳人の有名な句に「咳をしても一人」というのがある。
カウンターの女は、酔っ払って、一人で笑いこけているから、「笑っても一人」である。
さびしい笑い声。

4~5人の美形の女子に、「顔が変」と笑われたら悲しくなるが、「笑っても一人」の足の裏なら別に気にならない。

カウンター越しに女将が「お客さん、この店、初めてじゃない?」と私に話しかけてきた。

女将と、いろいろ世間話をして、気分転換を図っていると、カウンターの女が静かになった。
ちらと横を見ると、カウンターに顔を伏せて眠っている。

踝(くるぶし)である耳に埋め込んだガラスのピアスがキラキラ。
その様は、まさにカウンターに足を置いているみたい。

足首であるうなじがほっそりとして、ちょっとセクシー。
まあ、ここもこの女の良いところかな。

などと思っていると、またもや尾崎放哉の句が脳裏によみがえった。

足のうら洗えば白くなる

なるほど、こういうことだったのか。
その人の良いところを見て生きたいものだ。
と、デフォルメな女にデフォルメな納得。
時として俳句は、デフォルメな現実を反映するものなのかもしれないね。

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