旅人の独り言「馬をさへながむる雪の朝哉」

一晩に降った雪で、あたりが一面の雪野原となった朝。
宿の外へ出て街道を眺めると、白い世界を移動していく人々の影が朝日にくっきりと浮き上がって見える。
昨日までは、晩秋の枯れた風景だったのに、たった一晩で様変わり。

馬をさへながむる雪の朝(あした)
松尾芭蕉

朝日を浴びて、白銀の世界がキラキラと輝いている。
昨日とは別世界に変わった道中。
気分を新たにしなければ、旅を続けることはできない。
雪を被った山並が、昨日よりは高く立派に見える。
朝の空気が清々しい。
朝の色彩が清々しい。

おっと、これは月並みだ。
こんなことしか思いつかないのか。
ものを書くために旅に出たというのに。
この雪の朝を、どう書き表そう。

澄んだ空気に耳をすましていても、風景は語りかけてはくれない。
この変幻をよく見て、考えることだ。
しかし、考えすぎてもいけない。
結局は月並みの、元の木阿弥。

通り一遍ではいけない。
とんでもないものもいけない。
戯作ではないのだ。
さりげない取り合わせ。
意外ではあるが、はっと目を見張るような絶妙の調和。

夏ならば、いろんな花が咲いているものを。
一晩で降って積もったおかげで、あたりは雪ばかり。
でも、雪を被った木は、花が咲いているように美しい。
陽の光に透かされて、雪の花が輝いている。

ところで、雪ってほんとうに美しいのかね。
旅人は、はや融け出した雪の道に難儀しながら、そう思った。
遠くの雪は美しい。
ただ、眺めているだけならね。
でも、足元の現実は厳しい。
本音が出た。

風花雪月。
俳諧師は、雪を悪しく呪ってはいけない。
でも、ほら、あの馬だって、ずいぶん歩きにくそうだ。
艱難辛苦。
白い息を吐いて、力がはいっているが、苦労している。
手綱を引いている馬子だって、眠り足りなそうにあくびばかり。
この雪中に破れ股引、ふらふらの足取り。
大方、雪見酒と称して、がらにもなくしゃれこんで、夜なべをしてしまったのだろう。

そういうオレも、朝寝坊してしまった。
せめて、夜明けの月を見て、句を考えるべきだった。
「朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」なんてカッコ良くね。
でも、もう月は姿を隠した。
月に雪はやめよう。
月並みだ・・・・・・・。

おっといけない、今度こそ、この景色を逃さず眺めて、朝の一句をつくらねばならない。
雪景色を眺め、そのうえ馬までも眺(なが)むる雪の朝かな。
そうして、こんな感じで、馬までも詠(なが)むる雪の朝かな。

馬をさへながむる雪の朝哉。

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