あしびきのやまどりのおのしだりおのながながしよをひとりかもねむ

葦曳き野

まるで一本一本曳いたように、ほとんどの茎が東側に傾いている葦原。
おそらく、海の方からこの原っぱに吹き寄せている強風のせいなのだろう。
だが、どこか人の手による仕業であるような気がしないでもない。

敵は東からやってくる。
まるで、その敵を迎え撃つように葦の細く鋭い茎が東側を刺している。
古に、何度も何度も戦いのあった場所。
両側を険しい山に囲まれた谷地の葦原。

追っ手が攻め込む道はここしか無い。
いつの世も、敵はここから攻め込んで来たにちがいない。
おびただしい数の死を埋め込んだ谷。

矢窓裏の斧枝垂斧

将軍は、ここに櫓を建てることに決めた。
この強風の葦原に、背水の陣を敷く。
ここに櫓を建てて朝廷の兵を迎え討つ。
山から木を伐り出し、蔓で縛って、横一文字に柵を築いた。
敵の矢が通らぬように、丸太を隙間なく組んで、矢窓を設ける。

味方の矢は追い風に乗って、敵の甲冑を容易く射抜くことだろう。
それぞれの矢窓の裏には斧を置かせた。
それも太い枝垂木のしなる枝を柄にした枝垂斧である。
その柄の弾力が敵の首をはねるのに威力を発揮する。
葦曳き野矢窓裏の斧枝垂斧。

汝が流し世を

逆賊の汚名を着せられ。
謀略に追われ、戦いで兵を失い。
敗走する将軍。
朝廷を牛耳る汝が流した、世を謀る数々の陰謀。
だが、このまま汝がめぐらした奸計に滅ぼされてなるものか。
敗走しながらも将軍は兵を勇気づけ、反撃の機会を待った。

火取り香も

堀を深くし、その土で土塁を盛った。
堀のなかに火取り籠を置いて、香を焚いた。
火取り籠は、葦の根元にも配した。
香をたきしめて、谷の葦原を憎悪の香りで染め、葦の茎を尖鋭な槍に変える。
汝が流し世を火取り香も。

葦原の西には海が広がっている。
朝廷の軍は、この葦原に攻め入り、我らを海際の崖まで追い詰め、水の底へ沈めようという魂胆に違いない。
そうやって、宮廷に仕える幾多のもののふが策略に滅んでいったことだろう。

眠む

咎なくて死す。
多くのもののふが咎なくして死んでいった葦曳き野。
葦曳き野のそこかしこに刻まれた戦いの爪痕は、とても人の手によるものとは思えない。
獣か獣人か。

その魔力を追い払うように香を焚く。
香を焚きながら、葦の根元で最後の夜を眠るもののふ達。
葦曳き野矢窓裏の斧枝垂斧汝が流し世を火取り香も眠む

将軍は一睡もせずに、東の野を見据えていた。
曙光。
東の野に、炎の立つのが見える。
かえり見すれば、セレーネーは断崖の陰に傾きつつあった。

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