チャンスをください
小さな女の子が、道路の向こうで叫んでいる。
「ギミーチャーン!」
何度も、何度も。
その声が、トラックの轟音に吹き飛ばされる。
その声が、トラックの轟音に吹き飛ばされる。
私はウトウト、夢のなかでその声を聞いている。
「『ギミーチャーン!』って、『Give me chance!』ってこと?」
英語を習いたての教室の夢。
「プリイズギブミゼスペイパア。」
女教師は、歯並びがきれいだった。
まるで歌っているように口を開く。
「『paper』のところに替わりの単語を入れて例文を作ってみなさい。はい、ここの列。」
「Please give me this pencil.」
「Please give me this knife.」
「Please give me this note.」
まるで歌っているように口を開く。
「『paper』のところに替わりの単語を入れて例文を作ってみなさい。はい、ここの列。」
「Please give me this pencil.」
「Please give me this knife.」
「Please give me this note.」
机の上の、文房具の単語が続いて、私の番がきた。
「・・・・・・・・・・・・・」
私の答えは、見つからない。
「Please give me this ・・・」
女教師の白い歯が促す。
ついに、私は。
「Please give me this keshigomu.」
教室の中は、笑いの渦。
その渦の真ん中に、私と女教師が立っている。
「I think it is too bad that you missed your chance.」
女教師が、早口でつぶやいた。
私には、わからない。
私の耳に最後の「チャーン」だけが響いた。
その「チャーン」が、夢の世界から公園の角へ。
「キミーチャーン!」
「マイチャーン!」
下校途中の女の子が、道路を挟んでお互いの名を呼び合っている。
何度も、何度も、名前を呼び合いながら遠ざかる。
幼い日に誰もがやったこと。
老人はまた、ウトウト昼寝の世界へ引き込まれ。
「Give me chance!」と聞こえ。
「My chance!」と聞こえ。
ああ、そうか。
子どもは、その名前にチャンスが付いてるってことか。
それは、子どもはだれもが「チャーン」を持っているってことさ。
などと、夢うつつ。
老人になってから、わかること。
老人でもわかること。
だから、私にもチャンスをください。
何度も、何度も。
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私には、わからない。
私の耳に最後の「チャーン」だけが響いた。
その「チャーン」が、夢の世界から公園の角へ。
「キミーチャーン!」
「マイチャーン!」
下校途中の女の子が、道路を挟んでお互いの名を呼び合っている。
何度も、何度も、名前を呼び合いながら遠ざかる。
幼い日に誰もがやったこと。
老人はまた、ウトウト昼寝の世界へ引き込まれ。
「Give me chance!」と聞こえ。
「My chance!」と聞こえ。
ああ、そうか。
子どもは、その名前にチャンスが付いてるってことか。
それは、子どもはだれもが「チャーン」を持っているってことさ。
などと、夢うつつ。
老人になってから、わかること。
老人でもわかること。
だから、私にもチャンスをください。
何度も、何度も。
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