目をあけたら、長い廊下が前方に延びていた。
ほの暗い廊下のずっと先に、青白いガラス戸が小さく見える。
見知らぬ廊下だが、どこか懐かしい。
あのガラス戸の先には、小さな庭があって畑があって、その先に水田が広がっている。
そういう景色なら知っている。
子どもの頃の生家の景色。
この長い廊下は、そこへ通じているのか。
そんな夢を見ていると、目がさめた。
目の前に台所がある。
台所の窓から、夜明けの青白い光が狭い廊下を照らしている。
すぐ近くの右手にはトイレのドアがある。
そこまでは、立ち上がって四歩ぐらいの距離だ。
やっと身を起こして、ヨロヨロと歩きトイレのドアを開ける。
廊下は、こんなにも短かったのか。
壁に手をあてて身を支えながら用を足し、身体の向きをかえる。
すると布団は、目の前にあった。
ぬけだした布団の空洞が、だんだんと小さくなっていく。
その隙間に足を這わせる。
老いるとはこういうことなのかと思い知る。
廊下が短くなって消えていくことなのだ。
こどものころ、あんなにも長かった廊下が、今はどこにも見当たらない。
視界が狭まって、そしてついには、廊下のない等身大の箱の中におさまる。
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