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藤沢周平の短編小説「報復」を読んだ感想

2023/01/17
新潮文庫「藤沢周平 霜の朝」に収録されている短編小説「報復」のページ。

藤沢周平の短編小説「報復」は、武家に下男奉公していた男が、主人を陥れて死なせた藩の次席家老に、下男なりのやり方で「報復」する物語である。

下男の名は松平。
松平は、夜遅くに主人のお供をして次席家老の屋敷へ出かける。
その屋敷で、松平の知らぬ間に、主人の柚木邦之助(ゆき くにのすけ)が切腹して果てる。

門の外で、長時間にわたって待たされていた松平は、仔細がわからないまま、主人の横死を知ることになる。

柚木邦之助は、藩の勘定方に勤めていて、帳簿から次席家老が藩の公金を流用した証拠を見つけていた。
そのことを上役に訴えたが、彼の上役は藩の権力者には逆らえず、柚木邦之助の訴えは握りつぶされてしまう。

とうとう柚木邦之助は次席家老に直訴し、その結果、腹を切らされる。

下男であるがゆえに、事件について蚊帳の外だった松平は、ことの顛末を主人の同僚を介して知ったのだった。
さらに柚木家の存続を取引材料に、次席家老は邦之助の妻を凌辱してしまう。

柚木邦之助は、無口で男らしい風貌をしていた。
妻の康乃(やすの)は、美貌の女性だった。
松平は、この主人夫婦を誇りに思っていた。
ふたりに仕えていることを晴れがましく思っていた。

次席家老の仕打ちに対して、松平は何をすべきかを模索する。

さて松平は、どういう方法で主人夫婦が受けたことへの「報復」を成し遂げるのか。
興味を持たれた方は、藤沢周平の短編小説「報復」をお読みください。

「報復」は短編小説の題名であり、藤沢周平は松平の行動について、小説本文で「報復」という言葉を使ってはいない。
「何かしなければならないこと」とか「これから自分が何をしたらいいのか」とか「ご家老に一矢報いる」という言葉で松平の心の内を表現している。

その淡々とした表現が、松平の命がけの行動に臨場感を持たせている。

松平は、自分が何をなすべきかを見つけるために、情報収集に懸命になる。
そして「ご家老に一矢報いる」方法を見つける。
松平は、敬愛する主人夫婦が受けた仕打ちは、松平自身に対する仕打ちであると考えるタイプの人間なのかもしれない。

自身が受けた仕打ちに対して、それに見合っただけのことをして返す。

作者は、松平の心情に「憎悪」や「復讐心」という言葉を加えていない。
「ご家老に一矢報いる」ことは、あくまでも松平自身が成すべきことなのだ。
それを成し遂げた時、松平は笑顔の邦之助と康乃のまぼろしを見る。
ようやく主人夫婦と松平が、平和だった頃に帰った瞬間なのだろう。

「ご家老に一矢報いる」ことが松平の忠義心によるものだと作者は書いていない。
あくまでも自分の成すべきこととして、松平は行動したのである。

権力の横暴は、柚木家のものすべてに向けられたのだ。
権力側からすれば、下男の存在など取るに足りないものだったのだろう。
その下男が、次席家老に対して彼なりの方法で立ち向かってくるとは、権力の上にあぐらをかいている者には想像の及ばないところである。

無力な者が無力なりに、非道な仕打ちをした権力者に打撃を与えた。
松平は、主人の横死の真相や、次席家老が大切にしているものを、まるで探偵のように調べる。
そういう主人公に潜む強靭な精神と妥協しない性格が、抑制のきいた簡潔な文章で描かれている。

藤沢周平の「報復」は、痛快なハードボイルド風の小説としても興味深く読める。

という感想を、私は持った。

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