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谷崎潤一郎の探偵小説「途上」を読んだ感想

青空文庫(えあ草紙) 谷崎潤一郎 「途上」


谷崎潤一郎の短篇小説「途上」は、私立探偵が登場する探偵小説である。
偶然を装った数々の手口で、妻を殺した大手会社のサラリーマン湯河勝太郎の「犯行」を、私立探偵安藤一郎が解き明かしていく。

会社帰りの湯河に接触した安藤探偵が、日本橋付近の路上を共に歩きながら、巧みな会話で「妻殺し」の方法を暴いていく。
容疑者の帰宅の途上で、被害者の偶然の病死を、意図的な殺人として見破ってしまうというストーリーだ。

安藤探偵は、最初、ちょっととぼけながら広げた網を、だんだんと狭めていき湯河を追い詰める。
いろいろな理由を持ち出しては言い逃れをする湯河を、それに反駁する理由を上げて論じていく探偵。

この犯行を成り立たせたのは、病弱で従順な妻の存在である。

夫の言う事に従順で、疑いもせずに、夫に巧みに誘導されてチフスに罹り、命を落とす妻の痛々しさ。
自信たっぷりに、自身の論理を展開する探偵。
両者の対比が鮮やかに描かれている。

探偵の丹念な調査と饒舌な話しぶりに段々意気消沈していく湯河。
湯河には、家で待っている内縁の妻がいる。
まだ前妻が生きているうちから交際を続けていた。
彼女は、「ハイカラな顔」をしていて、高価な「手套(てぶくろ)と肩掛」を湯河に「せびる」ほどの女性。
おそらく、湯河が殺した地味な前妻とは正反対の女性なのだろう。

湯河が前妻をいたわるような行為や忠告は、すべて病弱な前妻を死に至らしめるための偽善や偽装であった。
探偵は、途上での湯河との会話の中で、この偽善を「外形」という言葉に置き換えて、推理を進めている。

善良そうな行為や忠告の中に潜んでいる二面性を指摘しているのである。
「外形」としては前妻をいたわっているように見えるが、その内実は病弱な前妻の弱点を悪化させて、死に至らしめようとしている。

湯河も、探偵が述べている「外形」は、実際の行為なので認めざるを得ない。
その内実や意図は、どうあれ。

探偵は、湯河の前妻に対する数々の行為や忠告の「外形」を剥ぎつつ、悪意あふれる内実や意図を明らかにするという手法で、湯河の殺意を暴く。
高給取りの湯河は、湯河家の権力者として君臨していたに違いない。
無知な良民だった前妻は、権力者の意図的な嘘にだまされて命を落とす。

この犯罪手法は、いろいろな方面の権力者に悪用されそうである。

それはともかく、とうとう湯河も、安藤の論理の力に敗北してしまう。

途上から安藤探偵に導かれて、前妻の父親が待っている探偵事務所にたどり着いた湯河は、「喪心したようにぐらぐらとよろめいて其処にある椅子の上に臀餅(しりもち)をついた」のだった。

この小説で作者は、世の中の善良そうな行為に見られる二面性を、それとなく表したのか。
などとブログ運営者は感じている。


色文字部分:小説からの抜粋
参考文献:青空文庫 えあ草紙 谷崎潤一郎 「途上」
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