雑談散歩

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落ちたぎち流るる水の磐に触り淀める淀に月の影見ゆ

川面に映った月影。

太古の時代に、文字は大陸から流れて来た。
水の流れのように高い場所から低いところへと、ごく自然に流れて来た。

文字は、文字を渇望していたこの島国に染みこんだ。
やがて、漢字とともに大陸の制度や宗教もこの国にたぎり落ちた。
吾々の先祖は、大陸の文明を滝のように浴びた。

あるものは水の流れに押し流されて滅んだ。
あるものは水の流れを利用して富を得た。

文字の流入を利用し、利用され・・・

この国は、大陸の属国にされるやも。
そんな流れが、できていた。
大陸の王は、文字を渡して統治を教え、傀儡を育てあげようとしたのかもしれない。

だが、流れ着いた漢字をこの国のことばで発音して、吾々の神の物語を編んだ者たちがいた。
神の歌を漢字で詠った者たちがいた。

この国の帝は、この土地に伝わる文化の断片をまとめあげ、物語を著した。
異国の文化から自立しようとしたのだろう。

「吾らは何者であるのか」
その答えを、吾々の言葉となった漢字で記して、国の内外に示した。

夜久毛多都伊豆毛夜幣賀岐都麻碁微爾夜幣賀岐都久流曾能夜幣賀岐袁
やくもたつ いずもやえがき つまごみに やえがきつくる そのやえがきを

「なんじゃ、これは!」
呪文のような漢字の羅列に、大陸の王はたじろいだ。

土着の文化が磐となって、大陸の波を防いだのだ。
土着の歌が侵略の波を遮った。

激しい流れは、磐の後ろの大きな淀みに吸い込まれた。
漢字は、この国の詩人に吸収された。

静寂の淀みに月の影が映っている。
まるで、歌のように。

落ちたぎち流るる水の磐に触り淀める淀に月の影見ゆ

おちたぎち ながるるみづの いはにふり よどめるよどに つきのかげみゆ

作者不詳(万葉集・巻九・一千七百十四)

■参考文献
斎藤茂吉著「万葉秀歌(下)」 岩波新書
武田友宏解説 ビギナーズ・クラシックス日本の古典「古事記」 角川書店=編 

この文章は歌の意味や解釈を記したものではありません。ブログ管理人が、この歌から感じた、極めて個人的なイメージを書いただけのものです。

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