2016/07/16

稲妻や闇の方行く五位の声

私が生まれ育った津軽半島の旧稲垣村には鶴見里という集落があった。
田園地帯の一本道の北側に、家々が並んで建っていて、集落の規模としては、村でいちばん小さなものであったように思う。
冬になると集落の上空を、よく鶴が飛んでいくので、鶴見里と名付けられたのだという。
だが、それは本物の鶴ではなく、シラサギのことだった。

私は、子どもの頃、冬の青空を飛んでいくシラサギを2度ほど見かけたことがある。
「ガー」とか「ギャー」とか、異様な鳴き声が頭上から聞こえたので、恐る恐る見上げたら、白い大型の鳥が二羽でゆったりと飛んでいた。
あまりにも間近に見たので、鳥肌がたったのを覚えている。
見たときは鶴だと思ったが、全身が白いのでシラサギであったことを後で知った。
シラサギとは、全身が白いサギ類の総称であるから、私が子どもの頃見かけたシラサギは、中型のチュウサギだったかも知れない。
ダイサギほどの大きな体では無かったような気がする。
美しい姿の割には、こわい声で鳴くものだなと思ったのを、今でも覚えている。

稲妻や闇の方(かた)行く五位(ごい)の声

元禄7年、芭蕉51歳の夏の作。
この年の秋に、芭蕉は病没している。

「五位」とは五位鷺(ゴイサギ)のこと。
ゴイサギは夜行性で、昼間は水辺の樹木などでひっそりと休んでいるらしい。
夜、飛んでいるときに「クワァー、クワァー」とカラスに似た大きい声で鳴くことがあるという。
姿は、シラサギ類ほど華麗ではない。
ずんぐりした体。
頭と背中が紺色で、がっしりとした黄色い脚を持っている。

私がこの句を読んで、真っ先に浮かんだイメージはサンダーバード。
稲妻が光る夜の空を、不気味な声で鳴きながら悠然と飛ぶサンダーバードである。
サンダーバードは、アメリカインデアンの神話に登場する架空の鳥。
雷を操ることができる怪鳥とされている。

この句に描かれている情景を、サンダーバードが飛んでいるような雄大なものに感じたのだった。
遠くに、闇夜を切り裂く稲妻の光。
一方、頭上の闇空は静まっているが、その闇の方へ飛んでいくゴイサギの鳴き声が聞こえる。
「クワァー、クワァー」という不気味な鳴き声。

こんな情景を、恐怖と感じるか、雄大と感じるか。
それは、読む人によって様々。

遠くで稲妻が走った。
今にも雷鳴が轟くだろうと、ドキドキしながら待ち構えていたら、頭上の闇空からゴイサギの鳴き声が聞こえた。
遠近感のある雄大な空間描写と、静寂感。
その静けさのなかで、闇に染み入るようなゴイサギの鳴き声。
闇に隠れて姿の見えないゴイサギの、神秘的な存在感が印象的な句であると思った。

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