2016/07/15

卯の花や暗き柳の及び腰

卯の花

「卯の花」とは、落葉低木であるウツギの花のこと。
清楚な感じの白い花を賑やかに咲かせる「卯の花」は、初夏を象徴する夏の季語となっている。

卯の花や暗き柳の及び腰

元禄7年、芭蕉51歳。
この年の秋に病没した芭蕉の、夏の句とされている。
「卯の花」はホトトギスとともに、夏を彩る和歌や俳諧(俳句)の題材となっていることが多い。
その清々しい印象が初夏の風情をそれとなく感じさせるからなのだろう。

柳は、春の季語。
枝垂れる細い柳の枝。
それが、小さな葉に覆われている様子は、淡い緑のベールのようで美しい。
「卯の花」が一斉に咲く頃は、季節が春から夏に向かって移っていく時期である。
白くかたまっているような「卯の花」の咲きざまを雪に例えた和歌も多い。
夏に清らかな雪を思い浮かべることは、暮らしに清涼感を呼び込んでくれる。

それは暑い夏の宵のことだった。
涼を求めて付近を散歩していると、暗い中でウツギの白い花が一斉に咲いている光景に出会った。
「もうそんな時期になったのか・・・・。」
すると、「卯の花」の傍らで動くものの気配。
その方に目をやると、枝垂れ柳の枝が微風に揺れている。
柳の枝がしなやかに揺れている様は、「柳腰」を連想させる。
「柳腰」は、細くしなやかな女性の腰つきのこと。

夜目にも眩いくらい、白く咲いている「卯の花」。
それを前にしては、柳腰の美女の存在は暗く霞む。
一斉に咲いている「卯の花」は、若い女性の清々しい笑い声のようである。
はちきれんばかりの若さを前面に出している若い女性の眩さ。
柳は、自身の年齢をかえりみて、気後れを感じているのかもしれない。
季節は、春が過ぎて夏。
白い「卯の花」の登場に、柳は「及び腰」。

先ほど、柳は春の季語と書いたが、柳は四季を通して俳諧に登場する。
葉柳は夏の季語であり、柳散るは秋の季語、枯れ柳は冬の季語となっている。
そんな多才な柳でも、華やかに咲き誇る「卯の花」には敵わない。

ウツギは生垣として植えられることが多い低木。
「卯の花」は、人々の暮らしに身近な花である。
一方、柳も暮らしの周辺でよく見かける樹木である。

芭蕉は、庶民の暮らしに身近な自然を題材にして、「及び腰」という比較的俗なことばを用いて句を作った。
当時のインテリが好んだ、過去の有名な和歌や漢詩を踏まえることなく、芭蕉は庶民の「直感」で多くの句を詠んでいる。
掲句は、そんな句のひとつであると言えるのではあるまいか。

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