食堂街の、延々と続く偶然
いたずら者の口笛
ショッピングモールの2階に、十数軒の店が並ぶ大きな食堂街があった。
「ピュルルルル・・・」
食堂街に、午後のBGMが流れている。
ポールモーリアの「口笛の鳴る丘」
浮き浮きしてきて、何かいたずらをしたい気分になってくる。
そんな春の午後は、悪ガキが目を光らせているもの。
食堂街の端の方に、レンガの装飾がおしゃれなパスタ料理専門店があった。
赤レンガの壁に緑色の蔦 の葉が這っている。
シックな店内で、女性が 「あっ!」と頓狂 な声をあげる。
女性店員が食器を下げている途中、バランスを崩した様子。
彼女は背後に何かの気配を感じて、思わず体が硬直した。
それで上体が傾いたのだ。
まるで滑稽 な喜劇役者のように。
やがて、数枚の皿やグラスの割れる音が店内に響いた。
「申し訳ありません。」と、皿の破片を片付けながら、困惑した表情の店員。
こんなことは、今までなかったこと。
様子を見ていた男性客が、テーブルをたたいて、大声で激しく笑った。
いい年の大人の無邪気な狂態は、醜悪なもの。
人の失態を高笑いするなんて。
なんて感情の貧しい人、という周囲の客の視線が男性客に集まる。
男性客は都合悪そうにパスタの皿に目を落として、一心に料理を食べ始めた。
「久々に可笑しかったが、大笑いしたのはまずかった」
男は、抱え込んでいた心の重圧が一瞬消し飛んで気が晴れかけたのだが、また、元の陰鬱 な気分に戻った。
以前にも増して、いっそう気分が陰鬱になった。
入口に近い席で、独り食事をしていたご婦人。
彼女は、急にしょんぼりしたこの男を見やりながら、「バカな男ね」と低くつぶやいた。
グラスに手を伸ばして、冷たい水をおいしそうに飲み干した。
このとき、イタリアンなショーウィンドウを眺めて、何を食べようかと迷っていた父親が、婦人の吐き捨てるような「バカな男ね」を耳にした。
彼は、自身が決断力に欠けることを普段から気にしていた。
自分のことをなじられたのだと思い、婦人の方へ視線を投げる。
そうとも知らないご婦人は、グラスをテーブルに置き、「ふん」と一笑。
彼女もまた、日頃の鬱積 を「バカな男」ともども一蹴したかったのだ。
一笑で一蹴。
その一笑が気に障った。
父親は、「食べたいものが無いなら、他の店に行こう!」と、小さい娘の手をぐいと引っ張り、急に歩き出した。
予期しない父親の行動に、女の子はたじろいだ。
たじろいだスキをついて、何かが女の子の肩を押した。
「あっ」と女の子は足を踏ん張る。
その拍子に、力の抜けた少女の手からボールが落ちて、食堂街の通路を弾んで転がった。
お昼過ぎの閑散とした食堂街。
ポールモーリアの軽快なBGM。
「ピュルルルル・・・」
ボールだけが、生き生きと 無心に弾んでいる。
まるで生き物のように。
愉快に弾んで、勢い余ったボールが、食堂街中央にあるステーキの店の内側へ消えた。
美味しそうなにおいが漂う店内で、「あっ!」と女性店員が声をあげる。
何か、バランスを崩した様子。
そのとたんに、数枚の皿の割れる音。
「申し訳ありません。」と、皿の破片を片付けながら、困惑した表情の店員。
その様子を見ていた男性客が、テーブルをたたいて、大声で激しく笑った。
昼下がりのルフラン。
空腹な小悪魔は、いたずらに夢中だ。
「ピュルルルル・・・」
午後の食堂街に流れるのは、繰り返しを楽しむいたずら者の口笛。
「ピュルルルル・・・」
食堂街に、午後のBGMが流れている。
ポールモーリアの「口笛の鳴る丘」
浮き浮きしてきて、何かいたずらをしたい気分になってくる。
そんな春の午後は、悪ガキが目を光らせているもの。
食堂街の端の方に、レンガの装飾がおしゃれなパスタ料理専門店があった。
赤レンガの壁に緑色の
シックな店内で、女性が 「あっ!」と
女性店員が食器を下げている途中、バランスを崩した様子。
彼女は背後に何かの気配を感じて、思わず体が硬直した。
それで上体が傾いたのだ。
まるで
やがて、数枚の皿やグラスの割れる音が店内に響いた。
「申し訳ありません。」と、皿の破片を片付けながら、困惑した表情の店員。
こんなことは、今までなかったこと。
様子を見ていた男性客が、テーブルをたたいて、大声で激しく笑った。
いい年の大人の無邪気な狂態は、醜悪なもの。
人の失態を高笑いするなんて。
なんて感情の貧しい人、という周囲の客の視線が男性客に集まる。
男性客は都合悪そうにパスタの皿に目を落として、一心に料理を食べ始めた。
「久々に可笑しかったが、大笑いしたのはまずかった」
男は、抱え込んでいた心の重圧が一瞬消し飛んで気が晴れかけたのだが、また、元の
以前にも増して、いっそう気分が陰鬱になった。
入口に近い席で、独り食事をしていたご婦人。
彼女は、急にしょんぼりしたこの男を見やりながら、「バカな男ね」と低くつぶやいた。
グラスに手を伸ばして、冷たい水をおいしそうに飲み干した。
このとき、イタリアンなショーウィンドウを眺めて、何を食べようかと迷っていた父親が、婦人の吐き捨てるような「バカな男ね」を耳にした。
彼は、自身が決断力に欠けることを普段から気にしていた。
自分のことをなじられたのだと思い、婦人の方へ視線を投げる。
そうとも知らないご婦人は、グラスをテーブルに置き、「ふん」と一笑。
彼女もまた、日頃の
一笑で一蹴。
その一笑が気に障った。
父親は、「食べたいものが無いなら、他の店に行こう!」と、小さい娘の手をぐいと引っ張り、急に歩き出した。
予期しない父親の行動に、女の子はたじろいだ。
たじろいだスキをついて、何かが女の子の肩を押した。
「あっ」と女の子は足を踏ん張る。
その拍子に、力の抜けた少女の手からボールが落ちて、食堂街の通路を弾んで転がった。
お昼過ぎの閑散とした食堂街。
ポールモーリアの軽快なBGM。
「ピュルルルル・・・」
ボールだけが、生き生きと 無心に弾んでいる。
まるで生き物のように。
愉快に弾んで、勢い余ったボールが、食堂街中央にあるステーキの店の内側へ消えた。
美味しそうなにおいが漂う店内で、「あっ!」と女性店員が声をあげる。
何か、バランスを崩した様子。
そのとたんに、数枚の皿の割れる音。
「申し訳ありません。」と、皿の破片を片付けながら、困惑した表情の店員。
その様子を見ていた男性客が、テーブルをたたいて、大声で激しく笑った。
昼下がりのルフラン。
空腹な小悪魔は、いたずらに夢中だ。
「ピュルルルル・・・」
午後の食堂街に流れるのは、繰り返しを楽しむいたずら者の口笛。