コンビニのレジから金を騙し取られた女性店員の話

シュークリームをチンして


「おまたせしました。」
「これ、チンして。」

「はい、かしこまりました、おにぎりと、ホットドッグと、・・・あら、シュークリームも温めるんですか?」
「そう、チンして。」

「でも、お客さん、シュークリームがドロドロになっちゃいますけど。」
「寒いから、あったかいのを食べたいんだよ。」

「ベトベトになっても良いですかぁ。」
「食うのは俺なんだからさ、早くチンして。」

「はい、かしこまりました。チーン、はいどうぞ。」
「へっ?・・・チーンって、口だけでチンして温まるのかい!」

一旦は主導的なスタンスに


「口だけチン、プラス私の手の温もりで充分温まります。」
「おまえなあ、そんなこと頼んでるんじゃないんだよ。ちゃんとレンジでチンしてくれよ!」

「ああーっ、おにぎり落っことしちゃいました、どうしましょう。」
「どうしましょうってねえ、取っ替えてくれよ。」

「ああーっ、今度はおにぎり踏んじゃいました、どうしましょう。」
「どうしましょうって、だから、取り替えてくれよ!」

「でもお客さん、今、ベトベトでも良いって言ってましたよね。」
「誰も踏んづけていいなんて言ってないよ!おい、客をなめてんのか!」

「ああーっ、それってセクハラですよー。」
「ど、どこがセクハラなんだよ。」

「お客さんの言葉で、私は今、私にとって不快なイメージを思い描いちゃったからよ。」
「それはおまえの勝手だろ、なに屁理屈こいてんだよ、屁理屈言う前にちゃんと仕事しろよ。」

「その『屁、屁』っていうのも不快なイメージ攻撃っぽいですわ。イメージハラスメントよ、イメハラだわよ。」
「まったく、おたくどういうパート教育受けているの?教育担当者は誰だった?スズキくんかね?」

「なに、それ・・・・・」
「実は私は、本部のほうから視察に来ている運営管理部視察課のサトウというものだけど。」

逆転する立場


「君はミズノくんだったね。」
「あ、はい、そうですけど。」

「少々言動が変なお客さんでも、丁重に応対するのが我がコンビニエンスストアヘブンヘルの接客ノウハウであると習わなかったのかね。」
「ええ、まあ、そんなふうな・・・・」

「じゃ、今の君の接客態度は何かね、我社の接客ノウハウに則った応対だったかね。」
「一応参考にはしているんですが、現実にああいう変な人がこられると・・・・」

「ちっとも変じゃないよ、私はごく普通にお客を演じていたつもりだったけどね。」
「でも・・・、シュークリームをチンなんておかしいですよ。」

「ちっともおかしくない。いろいろな好みを持っているお客様がいらっしゃるということだよ。お客様のご要望に応えるのが接客マナーの基本、そう習わなかったかねミズノくん。」
「はい、そのー・・・・・」

仕事に対する自信を揺さぶる


「このことは、本部に報告しておくからね。本部の判断次第では、君は接客業不適格者として辞めてもらうことになるかもしれないよ。」
「ええ、そんな、うちの子の塾代を稼がないといけないんですよ。クビにしないで下さいよ。」

「あなたをクビにするかしないかは本部が決めることであって、私の一存では・・・、ま、私の報告次第ではクビにならないようにすることもできるけどね。」
「な、なんとか、クビにならないようにお願いします。」

「ところで、君がこのレジを担当してからの売上はどのくらいかね。今の君の接客態度をみると、たいした売上になってないんじゃないのか。」
「いえ、今日は団体さんが何組もいらっしゃって、売上は伸びてますです。」

「だから、私は売上はどのくらいかねと訊いているんだよ、訊かれたことに正確に答えられないのかね、よくそれで接客業に就いていられるものだね。売上額はいくらかね?」
「は、はい、18万円ぐらいですけど。」

おだてて浮かせる(地に足がついてない状態に)


「ほう、この時間帯にしては、なかなかの売上額だね。ミズノくん、頑張ってるね。」
「はい、一生懸命に勤めますから、クビにしないで下さい。」

「それに、君は個性的で、なかなかの美人じゃないか、そういうキャラで売上を伸ばしているってことだね。」
「いえ、そんな美人だなんて・・・」

「あ、その笑顔もお客様に対して好印象を与えていると思うよ、そう本部に報告しておくからね。」
「あ、ありがとうございます。笑顔だけは絶やさないようにしているつもりです。」

「けっこう接客マニュアルを守って仕事してるんだね、なかなか優秀じゃないか。」
「じゃ、あのクビの話は・・・・」

「おおそうだ、君の売上を確認させてくれないか。紙幣の方だけちょっと私に渡して、あ、小銭はいいからね。」
「はい、これで全部ですが・・・・」

「確かに、紙幣だけで17万円はあるね。全部ミズノくんの手柄だよ、えらいね。さっそくこれを本部の上司に見せてね、君のクビを取り消してもらうからね。これは君の有能ぶりを示す証拠として、ちょっと私に預からせてくれよ。」
「え?クビって、もう決まってたんですか?」

「そ、隠密の視察担当者がね、前から君の接客態度をチェックしていたんだよ。それで実は君のクビはほぼ決定していたところでね。」
「それは、こまります・・・」

詐取実行


「なに、大丈夫。この売上を見せればね、大逆転。私が保証するからね。じゃちょっと本部に売上を持ち帰って、上司に報告してから、すぐにもどってくるからね。」
「はい、よろしくお願いしまーす。」

「ミズノさん、誰、今の人。」
「あ、店長おはようございます。本部のサトウさんって言ってましたけど。」

「へえ、あんまり見かけない顔だけど、何か用事があったのかな?」
「視察だって言ってました。」

「あの人、何か持って行ったけど、何だったの?」
「私の売上を本部の上司に見せるって言ってました。」

「えっ、じゃ現金を渡したわけ、ミズノさん。」
「そうです、すぐまたもどって来るって言ってました。」

「えええーっ、そんな話聞かないよ、で、いくら渡したの?」
「17万円ですけど・・・・いけなかったかしら?」

「いけないに決まってるよ、本部の社員が勝手に現金を持ち出すわけないよ、これはやられたかも・・・・」
「えっ、やられたって、まさか・・・・・、だって私の名前も知っていたし。」

「馬鹿だね、名札下げているんだから名前ぐらいすぐ分かるだろう。」
「ですよね。」

天国から地獄へ


「一応本部に問い合わせてみるけど、こんなマヌケな問い合わせもしたくないし、何よりも騙し取られた17万円は弁償してもらうからね、ミズノさん。」
「ええーっ、そんな!あの人もどって来るって言ったのよ。」

「気の毒だけど、弁償してね、ミズノさん。警察にはボクから連絡しとくから。」
「ああー、あの人絶対もどってくるわよ、ね、店長・・・・・・どうしましょう。」

※この話はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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