2021/05/10

原尞氏の「そして夜は甦る」を読んでいた時、寝たきりだった愛犬リリーが永眠した

山頂の犬
2013年4月28日、滝沢山地の折紙山山頂広場で、北方向を眺めながら一休みしているリリー。雪上の足跡は、長靴に軽アイゼンを装着した私のもの。


寝たきりになった愛犬リリーを介護しながら、ミステリー界の生ける伝説と銘打たれている原尞(はら りょう)氏の「そして夜は甦る」をインターネットの早川書房公式noteで読んでいた。
「そして夜は甦る」は、原尞氏のデビュー作。
主人公の私立探偵・沢崎を登場させた最初の作品とのことである。


ちょうど21章(全36章)を読み終えて、横向きに寝ているリリーを逆向きに寝返りをうたせた。
その直後、口を大きく開いて、もがくような仕草を4~5秒ほど続けてから動かなくなった。
呼吸が止まって、静かになった。
胸の付近に手を当てたら鼓動も止まっていた。

眼窩が落ちくぼんで、目が半開き状態。
大きく開けた口から、長い舌がだらりと下がっている。
抱き起こしても首に力がなく、大きな頭が垂れ下がるばかり。

リリーの死を確認した。
午前11時30分ごろだった。

昨日の朝から水も飲めないくらい衰弱が進んでいた。
目も虚ろになって、横たわったままお腹で深い呼吸を繰り返してばかりだった。
苦しい息を吐いていたのだ。
それでも、いずれ回復するのではと思っていた。
ところが、死は突然だった。
リリーの穏やかな寝顔を見ていると、「死んだ」という事実が、リリーとは縁のない世界の出来事のように思える。

明日(5月11日)がリリーの15歳の誕生日である。
大好きなオヤツも喉を通らなくなっていたので、誕生日のお祝いに何をあげようかと考えていたところだった。

リリーが死んだとき、15年という歳月があっという間に過ぎ去ったようだった。
私も一瞬で15年分老けた。
もう探偵小説を読んでいる齢ではない。

リリーの体をきれいにして、新しいシーツを敷いて、その上に寝かせた。
それから、市役所の市民課に電話をかけて、斎場での火葬の予約をとった。
ちょうど明日の8時45分と午後1時が空いていたので、午後1時の火葬に決めた。

ワンちゃんを段ボールの箱に入れて斎場に来てくださいと市民課の女性職員が説明してくれたので、仕事の材料が入っていた大きな段ボール箱をリリーを納める棺に改造した。

段ボール棺作りが、リリーのための最後の工作仕事になった。

DIYが好きなので、犬小屋を作ったり、食事台を作ったりして工作を楽しんでいたのだ。
後ろ脚が弱くなってからは、クルマに乗せるための段々を作ったり、玄関の段差を解消するスロープを作ったり。
まるっきり自立できなくなったので、風呂場で介護ハーネスを吊ってお尻をシャワーで洗うための吊台を作ったり。
プチプチ(エアキャップ)で床ずれ防止の輪っかを作ったり。
その他いろいろリリーの生活の補助になりそうなものを作って楽しんでいたのだが、棺作りは楽しい仕事ではなかった。

それでも、大型犬がすっぽり入る段ボール棺が完成した。
棺の中に供える花を買って、明日の火葬の準備は終わった。

リリーの寝顔を時々見ながら、また「そして夜は甦る」の続きを読んでいる。
今、27章目に差しかかったところ。
原尞氏はレイモンド・チャンドラーの大ファンであり、その影響を強く受けたとのこと。
私は、チャンドラーの「さらば愛しき女よ」の訳本しか読んでいないが、原尞氏の「そして夜は甦る」も面白い。

物語の展開のテンポが速くて、どんどん引き込まれていく。
笑える場面も多い。
久しぶりに出会ったエンタメ読物だ。
どこか懐かしい雰囲気を感じた。

登場人物のセリフの、「対話で活劇」しているっぽいやりとりが粋である。
ちょっと饒舌なくらいに粋過ぎて、くどさを感じるのはチャンドラーなみと言ったら、チャンドラーファンや原尞ファンに怒られそうだ。

パソコンのディスプレイに並んだ小説の文字を一心に追いかけ、目が疲れたらリリーの寝顔を拝んだ。

リリーは静かに眠っている。


おやすみ、リリー。