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川崎ゆきお著・小説「綾乃」を読んだ

2022/12/04
小説「綾乃」の表紙。

知る人ぞ知る

久しぶりに小説をイッキに読み切った。
次はどうなるのだろうという好奇心に駆られて、どんどん読み進めていく気持ちよさを、久しぶりに味わった。

小説の題名は「綾乃(あやの)」。
作者は、知る人ぞ知る「川崎ゆきお」。

知る人ぞ知るとは、興味のない人はまったく知らないということ。
川崎ゆきお氏は、少なくとも「純文学とやら」の愛好者には、無名の作家。

だが私は川崎ゆきお氏を、半世紀以上前から知っている。
ということは、あの七十年代を通り過ぎて、私は半世紀以上を生きてきたということか・・・

「猟奇王」

それはともかく。
そのころ(七十年代)、氏は月刊漫画雑誌「ガロ」に漫画を発表されていた。
私がよく読んでいたのは「猟奇王」。
登場人物たちの、わけのわからないポーズが、メチャメチャ面白かった。
「社会人(体制派?)」との対決姿勢に、ややこしい情熱を抱いている異端児・猟奇王。
ダークヒーローとはとても言えないダメな怪盗。
その部下の忍者(上忍)。
配役が奇抜で痛快だった。

「ガロ」

川崎ゆきお氏のほかにも、「ガロ」には、魅力的な漫画作家がたくさんいて、それぞれが独特な「世界」を執筆されていた。
この「ガロ」も、知る人ぞ知る漫画雑誌なのである。
大手出版社の週刊漫画雑誌の読者は、安西水丸氏とか、つげ義春氏を知らないであろう。

なので、川崎ゆきお氏は、二重に知る人ぞ知る作家ということになる。

私は若いころ、「ガロ」を購読していた。
発刊日が待ち遠しかった。
なぜなら、「ガロ」は私にとって「隠れ家」的な存在だったからだ。
自分が抱えているいろいろな問題を、いっとき忘れて、夢幻(ゆめまぼろし)の世界で遊ぶことができた。
「ガロ」は私にとってそういう雑誌だった。

桃の里

小説「綾乃」の主人公であるフリーターの青沼俊介は、スクーターでツーリング中に「桃の里」という桃源郷に迷い込む。
「桃の里」で青沼は、それなりの流れで、綾乃という美しい女性と同棲生活をおくることになる。

この桃源郷の数少ない住民たちは、歳をとらない。
いわば、不老不死である。
病気もなく、自殺でもしなければ死ぬことはない。

一番古くから住んでいるのは「里主さん」と呼ばれている「森小路春麿」という名の人物。
彼は、平安時代に「桃の里」に迷い込んだという。
今では、この里の主的な存在である。
どういうわけか、VISAが使える銀行のキャッシュカードを無数に持っている。
それが「桃の里」の運営資金になっているらしい。

「桃の里」では、食べなくても生きていけるが、習慣として食事はする。
したがって、生活のために働いて収入を得る必要はない。
住民同士の干渉も争いごともない。
現実社会になじめない青沼にとっては、理想的な世界なのだが。
青沼は、里を出て大阪にまい戻る。
彼は、自身の生活の場である現実の大阪で、綾乃との生活を築こうと努力する。
「この場所は反則なんや。ここで生きてても、生きたことになれへん。つまり死んでるのや。ここで暮らすことは死ぬことなんや」
「桃の里」についての青沼のセリフが、彼の生き方を表している。
小説「綾乃」は、努力する青年を描いた小説である。

電子書籍

この小説は、書店では販売されていない電子書籍。
私は川崎ゆきお氏が運営している「川崎サイト」から氏の小説の紹介サイト「TIAOBooks 」に移動し、販売会社を選択して購入した。
以下は、そのサイトでの小説「綾乃」の紹介文である。
魔性の女か、夢の女神か――謎のヒロインをめぐる葛藤と冒険!「現実社会」に自分の居場所を見つけられない30代のニート男、青沼がたまたま紛れ込んだ不老不死の桃源郷。そこで彼を待ちうけていたのは謎めいた美女「綾乃」だった。奇想天外な世界に入り込み、戸惑いながらも愛と平穏に満ちた生活を受け入れていく青沼。それも束の間、魔性の女・綾乃はやがて非現実・現実の垣根を超えて、青沼をめぐる人間関係を変容させていく……。

日本のサブカルチャーに大きな影響を与えたコミック誌「ガロ」で70年代にデビューした関西漫画界の異才、川崎ゆきおが、90年代にネット小説として発表。
コアなファンの間で名作と謳われたが正式出版はされていなかった幻の作品。満を持して電子書籍として登場!
と書かれているが、私の読んだ限りでは、小説に描かれている綾乃は「魔性の女」でも「夢の女神」でもない。
現実の生活に根をおろそうとしている純情な美女。

「葛藤と冒険!
は、ちょっと大げさ。

この紹介文の作者は、「綾乃」を読んでいない。
「猟奇王」の延長線上に「綾乃」を置いているだけである。

リアルと夢が交わる物語

小説「綾乃」は、この世界にありそうな物語だった。
リアルな夢物語と言おうか。
現実と夢幻が交わる物語と言おうか。

登場人物たちの会話が軸になって進展していく物語を、読み進めていくうちに、いつのまにか読者は「桃の里」を体験し「綾乃」に触れる。
おそらく、川崎ゆきお氏の文章力が、読者を「桃の里」に引き込むのだろう。

七十年代の泥臭かったセンチメンタリズムに満ちていた漫画「猟奇王」。
あの漫画の愛読者は、少数の変わり者たちだったような気がする。

小説「綾乃」は、それよりもはるかに多数の読者を獲得することだろう。
私は、そう感じた。

感想はここまで。
あらすじとか、そういう「ネタバレ」的なものは、詳しくは書かない。

興味のある方は、リンクをたどれば電書ストアで525円(税込み)で入手できる。

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