飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ
藤原宮 大極殿跡(サイゲンジロウ氏撮影・パブリックドメイン)。 |
去るのは女性(歌で物語を描くのは女性)
一斉に鳥が羽ばたくように、明日香の里をあとにして、去ろうとしている。三代続いた都の栄華を、もう見渡せないところまで来た。
こうして離れると、寂しさが募るばかり。
美しい都も、貴方との暮らしも、ずうっと続くものと思っていた。
馴れ親しんだ明日香の里。
壮大だった藤原の都。
幾度も幾度も振り返り、過ぎた日々に思いをはせる。
思い出深い池のほとりに、小さな墓標を建てて、貴方を埋葬したのだった。
大和国に入ったら、もう、池のあたりは見えなくなってしまうでしょう。
まだ元気だった頃、あの池のほとりから耳成山や畝傍山や天香久山を飽かず眺めたものだった、
そんな日々を残して、離れなければならない。
明日香は鳥に縁のある里なので、もし私が鳥になることができたら、幾度でも貴方のところに参ることでしょう。
お供えの花を絶やさないように。
去るのは男性(歌で物語を描くのは女性)
私を明日香の里に置き去りにして大和国へ行ってしまおうなんて。ずいぶん薄情なこと。
都が大和へ遷るのに便乗して、大和国の田舎娘に乗り替えるつもりなのでしょう。
私は鳥のようにどこへでも飛んでいける気ままな女だけれども、大和国なんて田舎へは行くものですか。
この捨て置かれた藤原京と運命をともにしましょう。
親しい人たちの行列を見送ろうと丘に上がったけれども、美しい明日香の里しか目に入らない。
もう貴方が進んでいるあたりは、ここからは見えないことでしょう。
きっと新しい暮らしの事など語らいながら去っているのでしょう。
置き去りにした私と捨てられた都のことなど気にもとめないで。
歌
飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ
とぶとりの あすかのさとを おきていなば きみがあたりは みえずかもあらむ
作者不詳(万葉集・巻一・七十八)
女帝である元明天皇の作という説もあるが、斎藤茂吉先生は、元明天皇の御姉、御名部皇女(みなべのひめみこ)の作ではないかと推測しておられる。
■参考文献
斎藤茂吉著「万葉秀歌(上)」 岩波新書
斎藤茂吉著「万葉秀歌(上)」 岩波新書
この文章は歌の意味や解釈を記したものではありません。ブログ管理人が、この歌から感じた、極めて個人的なイメージを書いただけのものです。