2018/02/21

三日月に地は朧なり蕎麦の花


テンプレート?

以前私は、芭蕉の「六月や峰に雲置く嵐山」の句のことを記事にした。
その記事で、この句は、「季節(季語)+天+地」というテンプレートに沿って作られたものではないかと書いたのだった。

この推測は、次の句にもあてはまるのではないだろうか。

三日月に地は朧なり蕎麦の花
松尾芭蕉

「三日月」→「季節(季語)」「天」
「地」→「地」
「蕎麦の花」→「地」

気になる「地」

この句が、上記テンプレートに沿った形になっているとすれば、「地」に「蕎麦の花」があるにもかかわらず、なぜ芭蕉は「地」という言葉を句のなかに配したのだろうか。

一面の蕎麦畑に広がる白い「蕎麦の花」が「地」としての彩りを放っているのに、敢えて「地」という言葉をつけ加えたのはどうしてなのだろう。
この句を読むときに、いつも私は、このことが気になっていた。

蛇足になるが、このテンプレート云々は、一般的な見解で無いことは言うまでもない。
これは、私個人の気まぐれな思いつきである。

芭蕉庵三日月日記

掲句は、元禄五年(1692年)八月の作。
芭蕉が編集した「芭蕉庵三日月日記」のなかに収められていた「三日月や地は朧なる蕎麦畑」を、後に改案したものである。

「三日月」とは、新月(朔)から数えて三日目の月のこと。
この句に登場する「三日月」は、陰暦八月三日の月。

三日月は、宵のうちに西の空に没してしまう。
日没の頃に姿を現し、その2時間後ぐらいに消えてしまうのが三日月。
淡い光を放ちつつ、短時間のうちに消えてしまう儚い存在である。

気になる「朧」

掲句を読む時、「地」とともに、もうひとつ気になる言葉がある。
それは、「朧(おぼろ)」。

秋なのに、どうして「朧」なのだろう。
「朧」は春の季語であり、春を代表するようなイメージを持っている言葉である。
「猫の恋やむとき閨の朧月」とか、「辛崎の松は花より朧にて」の句に見られるように、芭蕉は「朧」という言葉を「春の句」のなかに取り込んで「朧」な季節感を演出している。

朧月とは、ほのかに霞んで見える春の夜の月のこと。
空気中に水分が多い春に、月がぼんやりとして見えることから、その月を朧月と言うようになったとか。
「朧」とは、はっきり見えないとか、ぼんやりとかすんでいる様子を示す言葉である。

春の夜の月は「朧」だが、空気が乾燥している秋の月は、たとえ三日月でもはっきりとした輪郭で見えることが多い。
光が淡いとしても、夜空の片隅で冴え冴えと存在感を放っているのが陰暦八月三日の月である。

年ごとの名月の句

その八月三日の月が、やがて仲秋の名月になる。
十五夜の月、陰暦八月十五日の月である。
昔は、陰暦八月が一年中で最も空が澄み渡り、月が明るく美しく見えると言われていた。

芭蕉は、その年年、陰暦八月十五日の月の句を、深川芭蕉庵や旅の滞在地で詠んでいる。
「芭蕉年譜大成(著:今榮藏)」に掲載されている陰暦八月十五日の芭蕉の発句を年代順に並べたのが以下の箇条書きである。
  1. 貞享三年(1686年)八月十五日、江戸深川・第二次芭蕉庵 「名月や池をめぐりて夜もすがら」
  2. 貞享四年(1687年)八月十五日、鹿島紀行 「月はやし梢は雨を持ちながら」「寺に寝てまこと顔なる月見哉」
  3. 貞享五年(元禄元年 1688年)八月十五日、更科紀行 「俤や姨ひとり泣く月の友」
  4. 元禄二年(1689年)八月十五日、おくのほそ道 「名月や北国日和定めなき」
  5. 元禄三年(1690年)八月十五日、上方漂泊期・大津木曾塚(義仲寺)「月見する座に美しき顔もなし」
  6. 元禄四年(1691年)八月十五日、上方漂泊期・大津木曾塚(義仲寺、無名庵)「米くるる友を今宵の月の客」「三井寺の門敲かばや今日の月」
  7. 元禄五年(1692年)八月十五日、江戸深川・第三次芭蕉庵「名月や門に指し来る潮頭」
  8. 元禄六年(1693年)八月十五日、江戸深川・第三次芭蕉庵「夏かけて名月暑き涼み哉」
  9. 元禄七年(1694年 没年)八月十五日、伊賀上野「名月に麓の霧や田の曇り」「名月の花かと見えて綿畑」「今宵誰吉野の月も十六里」
このように、毎年の月見の句会や句作は、芭蕉にとって年中行事だったと思われる。
元禄五年の八月十五日、芭蕉は、貞享三年以来約五年ぶりで江戸深川から八月十五日の名月を眺めることになる。

句を読むヒントになった一文

それだけに、まだ三日月の頃から、名月に対する思いを燃やしていたと思われる。
「芭蕉庵三日月日記」のなかに収められた文章「芭蕉を移詞(うつすことば)」は名月に対する期待感で満ちている。

「菊は東籬に栄え、竹は北窓の君となる。」で始まる漢詩文調の「芭蕉を移詞」に次の一文を見つけた。
「地は富士に対して、柴門景を追ってななめなり。浙江の潮、三またの淀にたたへて、月を見る便りよろしければ、初月の夕べより雲をいとひ雨をくるしむ。」
この一文が、私が「三日月に地は朧なり蕎麦の花」の句を読む際のヒントになったのである。

「地」はロケーション

「地は富士に対して」という文の「地」とは、第三次芭蕉庵が富士山を望む位置に建っているという「立地」のことと思われる。
今風で言えば、ロケーション。

「月を見る便りよろしければ」とは、「浙江の潮、三またの淀にたたへて」いるので、それが月を見るのに良い具合になっているという意。
「便り」とは具合や加減のことなので、「地」には、月を見るには良い加減の立地であるというニュアンスが感じられる。

ならば、「三日月に地は朧なり」「地」もロケーションのことではあるまいか。
「地は朧なり」とは、そのロケーションが湿っぽくなって、朧に霞んでいて、名月鑑賞には危なっかしい状態になりつつあるということなのでは。

「朧」は天候に対する思い悩み

「地は朧なり」は、雨が降ったり雲が出たりするのではないかという、天候に対する心配を表しているように思える。

それは初月の夕べより雲をいとひ雨をくるしむ。」という一文からうかがい知ることができる。
初月の夕べより雲をいとひ雨をくるしむ。」とは、三日月の頃から月を隠す雲を嫌い、十五夜には雨になるのではないかと思い悩むことの意。

芭蕉は秋の長雨の到来を苦にしていたのかもしれない。

「蕎麦の花」に託した芭蕉の思い

それでは「蕎麦の花」とはなんだろう。
蕎麦の花は雨に弱いと言われている。
蕎麦の花が咲いているときに雨が多いと、受粉がうまくいかずに不作になるという。

蕎麦は、花が咲いてから12~13日で実が付き始める。
三日月も12~13日で満月になる。
芭蕉は、満月と蕎麦の生育を重ね合わせて見ていたのかもしれない。
十五夜近くに雨が続くと、五年ぶりの深川での月見が楽しめなくなる。

蕎麦は、実が付く過程で雨が続くと収穫が減る。
だから、散らずに咲いて、満月の頃までに実を結んでくれという芭蕉の願いが、下五の「蕎麦の花」に込められているのだろう。

天と地の対応

この句に、今一度気まぐれな思いつきを当てはめれば、以下の図式となる。

「三日月」→「季節(季語)/天」
「地」→「素敵な芭蕉庵のロケーション/地」
「朧」→「天候(天)」
「蕎麦の花」→「地」
天と地が対応している「芭蕉庵世界」が思い浮かぶ。
芭蕉庵とはそういう空間なのだろう。

まとめ

三日月に地は朧なり蕎麦の花

この句は、芭蕉の満月(天)に対する強い思いを、「蕎麦の花(地)」に託して詠んだのだと思う。

これは余談だが、芭蕉は満月を愛でながら美味しい新蕎麦を食べて、自身の心を満たそうとしたのかもしれない。
天の風流世界(月)と、地の庶民的娯楽(蕎麦)が対応する「芭蕉庵世界」なのだ。

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2018/02/09

コンビニのレジから金を騙し取られた女性店員の話

シュークリームをチンして


「おまたせしました。」
「これ、チンして。」

「はい、かしこまりました、おにぎりと、ホットドッグと、・・・あら、シュークリームも温めるんですか?」
「そう、チンして。」

「でも、お客さん、シュークリームがドロドロになっちゃいますけど。」
「寒いから、あったかいのを食べたいんだよ。」

「ベトベトになっても良いですかぁ。」
「食うのは俺なんだからさ、早くチンして。」

「はい、かしこまりました。チーン、はいどうぞ。」
「へっ?・・・チーンって、口だけでチンして温まるのかい!」

一旦は主導的なスタンスに


「口だけチン、プラス私の手の温もりで充分温まります。」
「おまえなあ、そんなこと頼んでるんじゃないんだよ。ちゃんとレンジでチンしてくれよ!」

「ああーっ、おにぎり落っことしちゃいました、どうしましょう。」
「どうしましょうってねえ、取っ替えてくれよ。」

「ああーっ、今度はおにぎり踏んじゃいました、どうしましょう。」
「どうしましょうって、だから、取り替えてくれよ!」

「でもお客さん、今、ベトベトでも良いって言ってましたよね。」
「誰も踏んづけていいなんて言ってないよ!おい、客をなめてんのか!」

「ああーっ、それってセクハラですよー。」
「ど、どこがセクハラなんだよ。」

「お客さんの言葉で、私は今、私にとって不快なイメージを思い描いちゃったからよ。」
「それはおまえの勝手だろ、なに屁理屈こいてんだよ、屁理屈言う前にちゃんと仕事しろよ。」

「その『屁、屁』っていうのも不快なイメージ攻撃っぽいですわ。イメージハラスメントよ、イメハラだわよ。」
「まったく、おたくどういうパート教育受けているの?教育担当者は誰だった?スズキくんかね?」

「なに、それ・・・・・」
「実は私は、本部のほうから視察に来ている運営管理部視察課のサトウというものだけど。」

逆転する立場


「君はミズノくんだったね。」
「あ、はい、そうですけど。」

「少々言動が変なお客さんでも、丁重に応対するのが我がコンビニエンスストアヘブンヘルの接客ノウハウであると習わなかったのかね。」
「ええ、まあ、そんなふうな・・・・」

「じゃ、今の君の接客態度は何かね、我社の接客ノウハウに則った応対だったかね。」
「一応参考にはしているんですが、現実にああいう変な人がこられると・・・・」

「ちっとも変じゃないよ、私はごく普通にお客を演じていたつもりだったけどね。」
「でも・・・、シュークリームをチンなんておかしいですよ。」

「ちっともおかしくない。いろいろな好みを持っているお客様がいらっしゃるということだよ。お客様のご要望に応えるのが接客マナーの基本、そう習わなかったかねミズノくん。」
「はい、そのー・・・・・」

仕事に対する自信を揺さぶる


「このことは、本部に報告しておくからね。本部の判断次第では、君は接客業不適格者として辞めてもらうことになるかもしれないよ。」
「ええ、そんな、うちの子の塾代を稼がないといけないんですよ。クビにしないで下さいよ。」

「あなたをクビにするかしないかは本部が決めることであって、私の一存では・・・、ま、私の報告次第ではクビにならないようにすることもできるけどね。」
「な、なんとか、クビにならないようにお願いします。」

「ところで、君がこのレジを担当してからの売上はどのくらいかね。今の君の接客態度をみると、たいした売上になってないんじゃないのか。」
「いえ、今日は団体さんが何組もいらっしゃって、売上は伸びてますです。」

「だから、私は売上はどのくらいかねと訊いているんだよ、訊かれたことに正確に答えられないのかね、よくそれで接客業に就いていられるものだね。売上額はいくらかね?」
「は、はい、18万円ぐらいですけど。」

おだてて浮かせる(地に足がついてない状態に)


「ほう、この時間帯にしては、なかなかの売上額だね。ミズノくん、頑張ってるね。」
「はい、一生懸命に勤めますから、クビにしないで下さい。」

「それに、君は個性的で、なかなかの美人じゃないか、そういうキャラで売上を伸ばしているってことだね。」
「いえ、そんな美人だなんて・・・」

「あ、その笑顔もお客様に対して好印象を与えていると思うよ、そう本部に報告しておくからね。」
「あ、ありがとうございます。笑顔だけは絶やさないようにしているつもりです。」

「けっこう接客マニュアルを守って仕事してるんだね、なかなか優秀じゃないか。」
「じゃ、あのクビの話は・・・・」

「おおそうだ、君の売上を確認させてくれないか。紙幣の方だけちょっと私に渡して、あ、小銭はいいからね。」
「はい、これで全部ですが・・・・」

「確かに、紙幣だけで17万円はあるね。全部ミズノくんの手柄だよ、えらいね。さっそくこれを本部の上司に見せてね、君のクビを取り消してもらうからね。これは君の有能ぶりを示す証拠として、ちょっと私に預からせてくれよ。」
「え?クビって、もう決まってたんですか?」

「そ、隠密の視察担当者がね、前から君の接客態度をチェックしていたんだよ。それで実は君のクビはほぼ決定していたところでね。」
「それは、こまります・・・」

詐取実行


「なに、大丈夫。この売上を見せればね、大逆転。私が保証するからね。じゃちょっと本部に売上を持ち帰って、上司に報告してから、すぐにもどってくるからね。」
「はい、よろしくお願いしまーす。」

「ミズノさん、誰、今の人。」
「あ、店長おはようございます。本部のサトウさんって言ってましたけど。」

「へえ、あんまり見かけない顔だけど、何か用事があったのかな?」
「視察だって言ってました。」

「あの人、何か持って行ったけど、何だったの?」
「私の売上を本部の上司に見せるって言ってました。」

「えっ、じゃ現金を渡したわけ、ミズノさん。」
「そうです、すぐまたもどって来るって言ってました。」

「えええーっ、そんな話聞かないよ、で、いくら渡したの?」
「17万円ですけど・・・・いけなかったかしら?」

「いけないに決まってるよ、本部の社員が勝手に現金を持ち出すわけないよ、これはやられたかも・・・・」
「えっ、やられたって、まさか・・・・・、だって私の名前も知っていたし。」

「馬鹿だね、名札下げているんだから名前ぐらいすぐ分かるだろう。」
「ですよね。」

天国から地獄へ


「一応本部に問い合わせてみるけど、こんなマヌケな問い合わせもしたくないし、何よりも騙し取られた17万円は弁償してもらうからね、ミズノさん。」
「ええーっ、そんな!あの人もどって来るって言ったのよ。」

「気の毒だけど、弁償してね、ミズノさん。警察にはボクから連絡しとくから。」
「ああー、あの人絶対もどってくるわよ、ね、店長・・・・・・どうしましょう。」

※この話はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

2018/02/01

同一店内あての現金によるATM振込手数料が無料でなくなった


居酒屋で銀行マンとマイナス金利の話


去年の暮のこと。
居酒屋のカウンターで地元の銀行員と隣合わせになったときのことだった。
いろいろ世間話をしているうちに、いつのまにか話題が銀行のことになった。

酔いが回ってきたせいなのだろう。
彼はポロッと愚痴をこぼした。
「銀行も景気悪いですよ、ずうっと悪かったんですが、一昨年のマイナス金利政策が実施されてからは、特に悪くなりましたからねえ・・・・」

おー、マイナス金利とかゼロ金利とか。
以前からよく聞いたコトバだけど。