山吹や宇治の焙炉の匂う時

芭蕉自画賛「山吹や」芭蕉年譜大成より

山吹

山吹はバラ科の落葉低木。
夏が間近な時期に、黄色い花を枝先につける。
樹形が株立状になっていて、晴れた日には、木全体に付いている無数の黄色い花が輝いて見える。
青森市周辺でも晩春になれば、丘陵地や山林の中でちょくちょく見かける花である。

山吹には、面影草(おもかげぐさ)という異名がある。
この植物は樹木ではあるが、茎が細く柔らかいので、背の低い個体なら草のようにも見える。
ちょうど私が紫陽花を草だと思ったように。
それで面影草なんてしゃれた草の名前がついたのだろう。

農家の製茶の作業


山吹や宇治の焙炉(ほいろ)の匂う時
松尾芭蕉

元禄四年春、「上方漂泊期」に、郷里の伊賀上野に滞在したときの句とされている。
前書きに「画賛」とあるから、誰かが描いた絵に贈った句なのだろう。
芭蕉はこの後伊賀を出て、四月十八日に京都嵯峨の落柿舎に入っている。
(※落柿舎(らくししゃ):向井去来の別荘。芭蕉はここに五月四日まで滞在して「嵯峨日記」を著した。)
伊賀上野で「山吹」の花の絵を見た時、芭蕉はこれから向かう京都のことが頭に浮かんだのだろう。

「焙炉(ほいろ)」とは、製茶用の乾燥炉のこと。
下から弱く加熱して茶葉を乾燥させる。
乾燥させながら、手揉み作業を行えるようになっている茶農家の作業台である。

ちょうど「山吹」が咲く頃、「宇治」では茶葉を焙(ほう)じる匂いが「焙炉」から漂ってくる。
どこの農家でも、茶葉を手揉みしながら乾かす作業に追われる。
芭蕉は、そんな「宇治」を散歩したことがあったのかもしれない。

また、「宇治」は大津に隣接している。
芭蕉が京都と大津を行き来するときは、「宇治」を通っていたに違いない。
旅の途中で、「宇治の焙炉」の「匂い」を嗅いだことだろう。

五感に訴える句

掲句は、色や香りなどで読む者の五感に訴える。
  1. 「山吹」の花の鮮やかな黄色を眺めて楽しみ。
  2. 「焙炉」から漂ってくる茶の香りを楽しみ。
  3. 「焙炉」のなかで爆ぜる炭の音に耳を傾け。
  4. そして、美味しい新茶を味わう。

空間の広がり

平坦な印象の句であるが、じっくり読むと味わいのある句であることがわかる。
「宇治の」という地名を出すことによって、「焙炉」のある場所が、「山吹」が咲いているところから離れていることを暗に示している。
そこから空間の広がりが感じられ、「山吹」と「焙炉の匂う」で季節のボリュームも感じられる。

過去と現在の対比

さらに掲句で面白いところは、「山吹や宇治の」という部分。
「山吹」は古くから和歌の題材として好んで使われている言葉。
風雅の印象が濃い言葉である。

「宇治」には、平安時代に貴族たちの別荘があったという。
源氏物語の舞台になったり、平等院鳳凰堂の地だったり。
「山吹」も「宇治」という地名も、日本の「中世王朝」の面影や香りのする言葉である。

その印象が、句の後半では「匂い」に転換する。
「焙炉」という道具(作業台)を使って製茶の作業をしている農家からの「匂い」である。
この対比が面白い。
「中世王朝」と「茶農家」との対比。

また、「中世王朝」のイメージと、「焙炉の匂う」という現在のイメージとの対比が、「匂う時」という「時」を軸にして行われている。

空間の広がりと時間の広がり。
掲句は、読めば読むほど立体的な像を浮かび上がらせる。

山吹をなぜ面影草と呼ぶのか、その由来については定かでは無い。
芭蕉は「山吹」に、「宇治」の中世王朝の面影を託したのかもしれない。
そして現在の茶農家と対比させ、過去の歴史に思いを馳せたのだろう。

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