2019/12/23

コリをほぐす超強力流水風呂

5年ぐらい前の話である。
私がよく行っていた銭湯が改装オープンしたときのこと。

どんなふうに改装したのかなと興味津々で行ってみると、浴場のタイルを貼り替えたりカランを最新式のものに替えたりで、いろいろとリニューアルしていた。
そのなかで特に目を引いたのが、「コリをほぐす超強力流水風呂」の出現であった。

いままでは「多連式マッサージ・ジェットバス」だけだったが、ジェットバス系がひとつ増えたのだ。
それが、「コリをほぐす超強力流水風呂」。

浴槽の壁には、「危険ですので中学生以下のご入浴は禁止します」という注意書きのプレートが貼られてあった。
私はその「禁止します」という随分な言葉に違和感を覚えたのだった。

「浴室内での喫煙はご遠慮下さい」とか「刺青をしている方のご入浴はお断り申し上げます」とかが一般的ではあるまいか。
いきなり「ご入浴は禁止します」とくるかね、普通。
しかも「危険ですので」ときたもんだ。

私は、かなり「中学生以上」の年齢である。
なので、その危険の程度を知るべく「コリをほぐす超強力流水風呂」を体験することにした。
そのときは、実際のところ肩こりが酷かったのだ。
 
奥行き1メートルぐらい、幅4メートルぐらいの細長い浴槽の端に、「コリをほぐす超強力流水風呂」の発生装置らしき機械が、細いステンレスパイプの格子に覆われて設置されていた。
装置とは反対側の浴槽の端にステンレス製の手すり付き階段が四段、浴槽の底に延びている。

浴槽に入ると、かなりの深さである。
身長167センチの私の腰上ぐらいの深さ。
水深90センチぐらいはある。

浴槽にはややぬる目のお湯が張ってあった。
その湯の中を歩いて装置に近づく。

ステンレスパイプ格子の奥には、ステンレス製の網で出来た四角い箱が設置され、箱の中に漁船のスクリュウのようなものが見えた。
装置の両側の壁にはステンレス製のパイプ手すりが備えられている。

ちょっとかがんで装置に背を向け、その手すりを握って体を支えると、右手の届く位置にボタンスイッチがふたつあった。
壁に設置された上下のボタンで、上のボタンには「止」の字、下のボタンには「オン」の字が刻まれている。

これは、おかしい。
「止」ときたら「動」のはず。
「オン」ときたら「オフ」でしょう。
しかも「オン」は英文字で「ON」と書くべきでしょう。

「これは、素人の手作りくさい」と私は思ったが、好奇の指がすでに「オン」を押していた。
「グイングオン」という装置の始動音とともに、水面が波立ち始めた。

「グゴゴゴゴー!」
徐々にスクリュウの回転が高速になっていくとともに波の高さが増し、その波に水中からの泡沫が激しく混入している。

と同時に、私の背中に大きな水圧がかかった。
手すりを握りしめていないと、私は水圧に押されて、流水に押し流されそうだった。

その装置はまるで「筋トレマシン」。
私はそう感じつつ、しばらくは筋トレを楽しんだのだが、この私には腕にかかる負荷が大き過ぎる。
そこで、右手を手すりから離すとすばやく「止」のボタンを押した。

右手の支えを失った私の身体は左側に回りかけたが、すぐに安定した。
泡沫が消えて、装置がピタリと静止したのだ。

すごい力だった。
私の両腕は、筋肉痛になりそうだった。

これでは、中学生以上でも腕力のないものには危険である。
きっと銭湯の経営者のオヤジが、物好きにも素人手作りで、こんな程度の過ぎる装置を設置してしまったのだ。

まったく警察がよく許可したもんだ。
もっとも管轄は市の保健所なのだが・・・・・・

それからも私はちょくちょくこの銭湯に通ったが、「コリをほぐす超強力流水風呂」には近づかなかった。
私がこの銭湯を訪れていたときは、「コリをほぐす超強力流水風呂」を利用しているお客さんを見かけることはなかった。

「コリをほぐす超強力流水風呂」の水面は、ずうっと静まり返っていたのだ。
あの日までは。

私は今でもあの日の光景をよく覚えている。
ガランとした銭湯の浴場。
射し込む夕陽。
波間に見え隠れする少年の青ざめた顔。

それは残暑が厳しい9月の終わり頃のことだった。
私は仕事を早めに切り上げ、汗だくになった身体をお湯で洗い流そうと銭湯に立ち寄った。

いつもより早い時刻に入ったその日は、銭湯はめずらしく空いていた。
脱衣場には、長椅子に寝そべっている老人がひとりいるだけだった。
浴場内は、小学生の少年と、浴場のタイルの床の上で口をあけて寝そべっている老人がひとり。

私は「多連式マッサージ・ジェットバス」にゆっくりとつかり、一日の疲れをもみほぐした。
それからカランに向かって粘っこい汗を洗い落とした。
鏡には、すっかり年老いた男の顔が映っている。
まあ、私の顔なんだけどね。

浴場の窓から西陽が射し込んで、床の一画を照らしている。
西陽の光を避けようと、寝転んでいる老人がタイルの上で痩せた身体をずらしている。
静まり返った黄昏のひとときだった。

私が髭を剃ろうとカミソリを頬にあてたとき、背後で「グイングオン」という音がした。
それは久しぶりに聞く「コリをほぐす超強力流水風呂」の装置の始動音だった。

私は手を止めて、「コリをほぐす超強力流水風呂」の方を振り返った。
「グゴゴゴゴー!」と轟音をたてて、細長い浴槽は激流のように波打っていた。
波のために水面が盛り上がり、浴槽からあふれたお湯が、寝そべっている老人の方へ流れている。

装置の前には誰もいなかった。
目を装置の反対側の方へ移すと、あの小学生の少年が激流に押さえ込まれてステンレスの階段に貼り付け状態になっていた。
少年の頭が波の合間に見え隠れし、頭が水流に水没するたびに髪の毛が海藻のように波に揺らいでいる。

波の合間に見えた少年の口元が、波に抗うように動いている。
私は立ち上がって激流状態の「コリをほぐす超強力流水風呂」に近づいた。

少年の口からは、「トメテトメテ」というか細い声が聞こえた。

これはなんという光景だろう。
おだやかな夕暮れのひととき、銭湯の浴場の一画で溺れかけている少年。
そんなことにも気がつかずに、タイルの上で眠りこけている老人。

少年は日常の深みにはまってしまったのだ。
ちょっとした少年の好奇心が、彼の死を招いているのだ。

私はこの光景を静かに見下ろしていた。
遠い世界からのように「トメテトメテ」という声が聞こえる。
それはまるで老婆が唄う御詠歌のようだった。

「みなかみは いづくなるらん いわまでら きしうつなみは まつかぜのおと」

いったいこの川の上流はどこにあるのでしょう。
そこへ行けば観音様に会える。
この川岸をうつ波の音が風に揺れる松葉の音と唱和し、上流にいらっしゃる観音様の教えを広めているようだ。

少年の「トメテトメテ」というかすかな声が、見知らぬ川景色を幻出させていた。
私の背後で、老人が痰のからんだ喉を鳴らす「ゴロゴロ」という音が聞こえた。
その音で、私は現実にかえった。
老人の浮き出た肋骨のような赤裸々な現実。

私は、急いで装置の「止」ボタンを押し込んだ。
「シュン」という音がして、浴槽の水面はすぐに静水にもどった。

少年は、飲み込んだお湯を吐きながら、よろよろとステンレス製の階段をのぼっている。
目覚めた老人が「ヤメロ、バカーッ!」と訳のわからない奇声をあげながら起き上がった。

銭湯の従業員が、あわてて浴場のガラス戸を開ける。
平穏だった死の幻想が、騒然とした生の現実に入れ替わったのだった。

その後聞いた話だが、私が小学生だと思った少年は、小柄な中学生だったという。
あの「コリをほぐす超強力流水風呂」の装置は取り外され、今では細長い浴槽を老人が歩行浴しているという。

久しぶりに銭湯に入り、列をつくって歩行浴をしている老人たちを見かけたら、5年ぐらい前の光景を思い出してしまったので、ここに書きとめておくことにしたしだいである。

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2019/12/15

弘進ゴム製の防寒着「HUMMER HM-3300」を買った

弘進ゴム製の防水防寒具
HUMMER HM-3300。

冬場の愛犬の散歩などに使っていた防寒着が、だいぶショボくなってきたので新調することにした。
いつも利用している大野の作業用品店で、おNewの防寒着を買った。

レインウェアも兼ねていて、デザインもまあまあ、値段もまあまあというところで決定。
購入した防寒着のメーカーは、なんと「弘進ゴム株式会社」。

「弘進ゴムって、仙台に本社があるあの長靴メーカーの弘進ゴムなのか」と、ちょっと意外だったが、現在の弘進ゴムは長靴の他にレインウェアとか防寒着も作っているようだ。

子どもの頃の長靴は、弘進ゴムかミツウマだったように記憶している。
ミツウマの本社も北国のほうじゃなかったかな。

津軽地方で使う長靴は、防寒用でなければ役に立たない。
子どもたちの長靴が活躍する場は、冬の雪の上がほとんどだったからである。

そして津軽地方の厳冬期に対応できる長靴は、北国の会社でなければ作れない。
なんて、子どもの頃の長靴の思い出に浸りながら、極論を履いて、いや極論を吐いてしまった。

それはともかく、私が購入した弘進ゴム製の防水防寒着は「HUMMER(ハマー) HM-3300」という製品である。
ワーキングウェアのデザインがアウトドアレジャーウェアっぽくなってきたのは、最近の流行だが、弘進ゴムの「HUMMER HM-3300」もその傾向にある。

私が20代の頃の防寒作業着といえば「ドカジャン(土方ジャンパー)」が一般的だった。
この頃は、時代が「スタイリッシュ」を求めているようだ。


裏地はキルト加工
キルト裏地。


この「HUMMER HM-3300」も北国のどこかの工場で作っているのだろうなあと思いながらタグに目をやると「MADE IN MYANMAR」とあった。

「え、ミャンマーって熱帯地方だべなあ」と驚いたが、まあ、防寒着の設計がしっかりしていれば、製造はミャンマーでもいいんじゃないということで納得。
タグにはシャレたアイコン付きで「保温設計」・「防水設計」と記載されている。

さて、「HUMMER HM-3300」の購入価格は、防水防寒スーツ上下セットで税込み6,578円。

タグに記してある材質は以下の通り
  • 表地:ポリエステル100%PVCラミネート/ドビーリップ はっ水(水をはじきやすい)
  • 中綿:ポリエステル100%
  • 裏地:ポリエステル100%アクリルコーティング
夕方の愛犬の散歩のときに着てみたが、今日の気温はこの時期にしてはちょっと高め。
厳冬期にならないとホントウの防寒性能はわからない。
でも、ほんのりと上体を包み込むような温かさであった。
買い物に大ハズレがなかったので一安心。


裾から中綿が出ている
裾から白い中綿が出ている。

ただ、気になった点が三つほどある。

上の写真のように、上着の裾を絞っているゴム通しの穴から白い中綿がはみ出ている。
こんな仕上げで大丈夫なのかなあと心配である。

次は、ファスナーが華奢で弱そうなこと。
しかも、YKK(YKK株式会社)製じゃない。

私が着用している「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」や「Columbia(コロンビア)」や「RATERA(ラテラ)」や「mont-bell(モンベル)」などのアウトドアウェアのファスナーはすべてYKK製である。

「自重堂(じじゅうどう)」や「bigborn(ビッグボーン)」などのワーキングウェアメーカーのファスナーもYKKである。
冬山や工事現場で着用するウェアのファスナーのほとんどがYKK製なので、YKKじゃないと、ちょっと不安な気分になる。

どんなシーンでも、ファスナーが頑丈でスムーズでないと快適ではない。
上着は着た後に閉じることができなければ、衣服として役にたたないのである。

そして三番目の気になる点もファスナーのこと。
下の写真のように、ファスナーが襟元の位置から上へ上げづらい。

吹雪のときは、フードで頭部を覆って、ファスナーを目一杯上に上げて、首から体温が奪われるのを防ぐのがベスト。
ファスナーの不具合でそれができないのは、快適ではない。
防寒具としても十分ではない。


ファスナーがスムーズに上がらない。
この位置からファスナーの動きがスムーズでない。

首から上へファスナーがスムーズに上がらない原因は、下の写真にある襟元のベロ状のものが、スライダーの移動の障害になっているためである。
このベロは、ネック部の保温のために付けられたものと思われるが、ファスナーが上がらないのでは、本末転倒。
ここがいちばん残念なところである。

ともあれ、着心地がまあまあなので、「HUMMER HM-3300」も悪くはないなという感想を持った。
とくにフードがいい感じである。
ファスナーのスライダーがうまく上がると、ベロが顎をおさえる具合になってフードのフィットを高めているように感じた。
頭部や首が暖かくて、しかもフードが視界をそれほどさまたげていない。
この点は気に入っている。

これから津軽地方は厳冬の季節を迎える。
そのときにどれだけの対応力を発揮できるのか、今から楽しみにしている。


襟元のベロが邪魔。
襟元のベロがファスナーの邪魔をしている。

2019/12/11

廊下のない箱

目をあけたら、長い廊下が前方に延びていた。
ほの暗い廊下のずっと先に、青白いガラス戸が小さく見える。

見知らぬ廊下だが、どこか懐かしい。
あのガラス戸の先には、小さな庭があって畑があって、その先に水田が広がっている。

そういう景色なら知っている。
子どもの頃の生家の景色。
この長い廊下は、そこへ通じているのか。

そんな夢を見ていると、目がさめた。
目の前に台所がある。
台所の窓から、夜明けの青白い光が狭い廊下を照らしている。
すぐ近くの右手にはトイレのドアがある。
そこまでは、立ち上がって四歩ぐらいの距離だ。

やっと身を起こして、ヨロヨロと歩きトイレのドアを開ける。
廊下は、こんなにも短かったのか。

壁に手をあてて身を支えながら用を足し、身体の向きをかえる。

すると布団は、目の前にあった。
ぬけだした布団の空洞が、だんだんと小さくなっていく。

その隙間に足を這わせる。

老いるとはこういうことなのかと思い知る。
廊下が短くなって消えていくことなのだ。
こどものころ、あんなにも長かった廊下が、今はどこにも見当たらない。

視界が狭まって、そしてついには、廊下のない等身大の箱の中におさまる。

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2019/12/06

冬になってサンシュユの実が甘くなった

雪の中のサンシュユの木
平和公園の島にあるサンシュユの木(写真中央)


夏頃はあまり目立たなかったサンシュユの実が、落葉したらよく目につくようになった。
実を覆っていた葉っぱが消えたので、小粒の赤い実が顔を出したのだ。

こうして姿をあらわすと、たくさんの実が葉陰に潜んでいたことがわかる。
裸木にたくさんの赤い実がついている姿は、見ていて楽しい。

サンシュユは、春の残雪の頃に花を咲かせはじめる
平和公園では、一番最初に咲く花である。

早春には、黄色い可憐な花が盛りだくさんに枝を覆って美しい。
葉が出るよりも早く花が咲くので、木全体が黄色に覆われているのが遠くからでも確認できる。


しぼんできたサンシュユの果実
しぼんできたサンシュユの赤い実。


あの花のほとんどが実になるのだから、落葉しても赤い実で賑わっているのだ。
落葉する前は、紅葉が美しい。

サンシュユの紅葉は、渋い赤色で落ち着いた雰囲気がある。
春から初冬まで、見る者を癒やしてくれる趣多い樹木である。

サンシュユの赤い実はグミによく似ている。
漢字では「山茱萸」と書き、日本ではヤマグミの別名がある。

でもサンシュユは、ミズキ目ミズキ科でグミ科ではない。
グミは、バラ目グミ科の植物。
グミではないが、赤く熟した果実はグミのように美味しそうに見える。


サンシュユの総苞片と赤い実
しぼんできた果実と、その後の総苞片(この中で蕾が育っている)。



秋の中頃に、愛犬の散歩コースである平和公園の池の島を通りかかった。
八畳間ほどの広さの小さな島に、四メートルぐらいの高さのサンシュユの木がある。

サンシュユの赤い実は、食べることができると言われている。
そろそろどうだろうかとつまんで食べてみたが、渋みと酸っぱさが口のなかに広がった。
甘みがほんの少々感じられただけだった。

つぎに秋の終わり頃に食べてみたが、渋さと酸っぱさが後退して甘みが強まっていた。
それから、島を通るたびに三粒ぐらいつまんで食べている。

サンシュユの実は乾燥させて生薬として利用され、その効能は強精作用だそうである。
ホホホホ、食べすぎに注意だね。

極端に精が強くなっても困りものだからね。
もっともその効能が本物であるならの話だけど。

雪が降るようになったこの頃は、甘さが増したように感じられる。
甘いといっても、熟した柿のような甘さではなく、ほんのりとした甘さ。
もうこの時期になると、果肉はハリがなくなってベチャベチャした食感である。

赤い実を口の中に入れて、大きな種を雪の上に吐き出す。
こんなことをやっているのは、公園の散歩者のなかで私だけかもしれない。

こうして、サンシュユの実が枝から落下するまで私のつまみ食いは続くのである。

(※この記事は、サンシュユの実の生食をすすめるものではありません。)


池に枝を差し出しているサンシュユ
赤い実と白い雪。