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小泉吉宏の掌編小説「喋る男」が面白い

創元推理文庫「選んで、語って、読書会 2」収録 「喋る男」小泉吉宏


小説「喋る男」の作者である小泉吉宏氏は、「ブッタとシッタカブッタ」などで知られる漫画家でもある。

「喋る男」は文庫本でわずか3ページという極めて短い小説。

だが、読んでみると、その面白さは長く尾を引く。
よくこんな物語を思いつくものだと、読後の余韻が心に残る。

ひとつ残念だったのは「もう三百七十五年分も話を聞かされた」などと、大仰な描写があること。
もちろん、「ショートショート」には大げさな表現は付き物かもしれないが、「喋る男」とは、少し合わないように私は感じている。

これさえ無ければ、私が今まで読んだ「ショートショート」のなかでは、面白さダントツと言ってもいいほどだ。

では、「喋る男」のどこがそんなに面白いのか。
私には、この奇抜な物語が「生活感があって、地味な雰囲気」に着地するところが、非常に面白く感じられた。

一般にショートショートとは、奇抜なアイデアと意外な結末を持つ非常に短い小説とされている。

「喋る男」は、そういう要素を大いに持っているが、結末自体はいたって地味である。

物語には、無口な男を腹話術を使って喋らせるという異様な女が登場する。
だが、彼女の企みは、「普通に家庭を持ちたい」という、ごく平凡な願望のようである。

叔父さんに腹話術が見破られ「結婚はゆるさん!」と言われると、「お前にわたしの苦労がわかるか」と切り返し、最後には、「ふん、男はこいつだけじゃない」と捨て台詞を吐いて去っていく。

もしこの女が、もっと狡猾であったり奇怪な存在であったなら、物語はホラー調になっていたかもしれない。
しかし、結末はありふれたドラマであった。

結局のところ、意外だったのは、無口な男性を腹話術で、喋らせて操ろうとしたことだけである。
そこには、仕掛けられた「非日常」があるものの、男が生来の無口に戻ることで、物語は「日常」の範疇に収まる。

女は、妖術使いなのか、ただの腹話術使いなのか。

この「非日常」と「日常」の境界があいまいなまま、最終的に「非日常」が「日常」へと回収される結末が、この小説の魅力となっている。


※赤文字部分 「喋る男」からの引用

創元推理文庫「選んで、語って、読書会 2」収録 「喋る男」小泉吉宏

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