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宮部みゆきの短篇小説「オモチャ」|暗黙のふれあい

【「チヨ子」宮部みゆき(光文社文庫)収録「オモチャ」】

宮部みゆきの短篇小説「オモチャ」は、
孤独な老人の幽霊を巡る物語である。

生前彼は、
50歳を過ぎてから、
商店街の「玩具屋」の婿養子になった。

75歳頃になったとき、
つれあいが80歳で亡くなった。

すると、
老婆の死が年相応の自然死だったにもかかわらず、
老人が絞殺したのだという、
根も葉もない、面白半分の噂が町に広がった。

彼は、余所者であるため、長年のつきあいで結束の強い商店街から孤立していた。

そのうえ、性格が善良だったので、悪意のある者には、からかいやすい存在だったのだろう。

時代の流れに取り残されて、徐々に寂れていく町の商店街。
その商店主たちが共有している閉塞感が、余所者を排除する原動力となっていたのかもしれない。

やがて噂話が、テレビの深夜番組や情報誌に取り上げられるようになった。
寂れる一方だった商店街が、急に騒々しくなった。
孤独だった老人は、ますます孤独になり、ある日、店のシャッターの前で亡くなっていた。

病気で亡くなったのに、老人が首つり自殺をしたという噂が広がった。

この老人と対照的に描かれているのが、小学校三年生の少女である。

少女と老人は親戚関係にあるが、家同士の交流は無い。
長年疎遠だったため、父親の叔父にあたる老人とは、お互いに距離を置いていたのだ。

小学校三年生の少女は、大人の人物批評ができるほどの観察好きである。
彼女の眼は、町の噂好きのおばさんの無遠慮さを見、玩具屋の老人の寂しさを見てきた。
両親の感情の機微もある程度分かるこまっしゃくれた少女だった。

老人が亡くなってから、少女は商店街で老人の幽霊を見るようになった。
少女とその父親にだけに見える幽霊。

老人の幽霊が、
商店街の店を見たり、
店の前に立ったりすると、
その店は売りに出たり営業をやめたりするということを少女は知った。

老人もまた見ていたのだ。
長年のつきあいから抜け出せなかった店主たちの「閉塞状態」が崩れつつあることを。
玩具屋の奥で弱々しく腰かけていた無力な彼を、商店街の人達が見ていたように、彼もまた見ていた。

商店街の人達の焦燥感が、物語の背景に陰を落としているとも言える。
やがて来るであろう大資本の脅威に脅えて、無力な者が、より無力な者を無意識に攻撃する。

だが老人は怨霊となって町を呪うのではなく、静かに町を見守っている。
子どもに夢を売る玩具屋の店主の務めであるかのように。

多くの店主たちは、長年のしがらみや惰性から抜け出せず、変化することも撤退することもできずにいる。
そうした停滞の中で、老人の幽霊は、静かにその均衡を崩し、「店じまい」というかたちで状況を動かしている。
彼は、かつて無力であったが、死後においては、閉塞した共同体を「終わらせる者」として機能しているのである。

それが彼の善良さであり、少女や周囲の人達に対する気遣いのように感じられる。

老人の幽霊は、少女を怖がらせないために、少女を見ない。
だが、老人の善意に気がついた少女は、幽霊が自分を見てくれることを望んでいる。

そこに感じられるのは、老人と少女との暗黙のふれあいである。
作者がこの物語で提供している「人の優しさ」が、この「ふれあい」に描かれている。
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